相続対策と聞くと、「子どもたちの取り分」や「節税の話」と思われがちですが、本当に守るべきは“残される配偶者”の生活です。
特に、夫婦のどちらかが亡くなったとき、もう一方が経済的にも精神的にも困らずに暮らしていくには、事前の備えが重要になります。
たとえば、不動産ばかりの相続では生活費が足りず、「資産はあるのに使えない」という事態も。
また、遺言書があっても遺留分の問題や法律の変化に対応していなければ、かえってトラブルの火種になることもあるのです。
本記事では、「全部配偶者に相続すれば安心」という落とし穴をはじめ、見過ごされがちな5つのリスクと、配偶者の老後を支えるための実践的な対策を詳しく解説します。
節税と生活保障をどう両立させるか? どんな制度をどう活用すべきか? 今こそ知っておきたい内容を、わかりやすくお届けします。
配偶者の安心は、あなたの老後の安心にもつながる――
その一歩を、今日から踏み出してみませんか?
目次
相続と聞くと、「自分が亡くなった後の話」「子どもたちの間の問題」と考えがちですが、実はもっとも影響を受けるのは“残される配偶者”です。
特に、夫婦の一方が亡くなった後、遺された配偶者が安心して暮らせるようにするには、早い段階からの相続対策が不可欠です。
例えば、財産の多くが不動産で現金が少ない場合、配偶者は相続後の生活資金に困るケースもあります。
また、相続税の負担や、他の相続人(子どもなど)との共有名義によって、住まいや資産の処分が自由にできなくなるリスクも。
相続は「亡くなった人のための準備」ではなく、「残された人の生活を守るための対策」なのです。
つまり、配偶者の老後の安心と生活を守るには、相続対策を抜きにして語れません。
配偶者への配慮こそ、家族の未来を守る第一歩なのです。
「財産はすべて配偶者に渡せば安心」と考える方は多いですが、実はこれが将来の大きなリスクになることもあります。
たしかに、配偶者には「相続税の配偶者控除」があり、法定相続分や1億6,000万円までは非課税となるため、全部を渡す方が節税になると考えがちです。
しかし問題は、その後に起こる“二次相続”です。たとえば、夫が亡くなった後に妻がすべてを相続すると、妻の死後に子どもたちが相続する際には、控除が減り、相続税が大きく発生する可能性があります。
また、子どもたちが「何も相続できなかった」と感じれば、感情面のわだかまりが残ることも。
財産を一人に集中させることで、次世代への分配が不公平になり、家族の関係が悪化するリスクも無視できません。
相続は節税だけでなく、「家族全体の将来」を見据えて分けることが大切なのです。
配偶者だけにすべてを渡すのは、一見親切でも、結果として負担を残すことになりかねません。
相続対策として「遺言書を作っておけば安心」と思われがちですが、実はそれだけでは不十分な場合があります。
まず、自筆の遺言書には形式不備や保管忘れなどのリスクがあり、発見されなかったり無効になるケースも少なくありません。
さらに、遺言書があっても「遺留分」と呼ばれる法定相続人の最低限の取り分を侵害していれば、子どもなどの相続人から遺留分侵害請求を受ける可能性もあります。
例えば、「すべてを配偶者に相続させる」と記しても、それが他の相続人の権利を損ねていれば争いの火種になるのです。
また、新制度の「配偶者居住権」などを適切に活用するためには、遺言書の内容が最新の法律に対応している必要があります。
つまり、遺言書は重要なツールである一方で、作成の仕方や内容に注意が必要です。
単に書けばよいのではなく、「家族を争わせない」「老後の生活を守る」ために、定期的な見直しと専門家の関与が不可欠なのです。
相続対策の目的は、財産の分け方だけではありません。もっとも大切なのは、残された配偶者が経済的に困らず、安心して暮らしていける状態を整えることです。
そのためには「老後資金をどう確保するか」を具体的に考える必要があります。
第一に、現金や預貯金の割合を確保すること。
不動産ばかりを相続しても、生活費には困る可能性があります。
第二に、固定資産税や維持費などの支出も見込んでおくこと。
住まいを相続しても、そこにかかる費用で生活が圧迫されることも。
第三に、介護や医療費の準備です。
年齢を重ねれば支出は増加傾向になりがちで、まとまった資金の備えが重要です。
相続財産の総額が多くても、現金がなければ「資産はあるのに生活が苦しい」という“資産貧乏”状態に陥るリスクもあります。
つまり、相続=資産移転ではなく、“生活支援”という視点での設計が、配偶者の老後の安定には不可欠なのです。
2020年にスタートした「配偶者居住権」は、残された配偶者が住み慣れた家に安心して住み続けられるように設けられた新しい権利です。
従来は、家を相続する代わりに預貯金が少なくなるケースや、他の相続人との共有名義になり住みにくくなるケースが多く見られました。
そこでこの制度では、「建物に住み続ける権利」と「所有権」を分けることで、配偶者に居住の安心を与えつつ、他の相続人にも公平な財産分配ができる仕組みとなっています。
ただし、配偶者居住権を活用するには「遺言書」や「遺産分割協議」で明記する必要があり、制度への正しい理解と事前準備が欠かせません。
また、将来的にその家を売却したりリフォームしたい場合は制限がかかるため、柔軟性の面でのデメリットもあります。
この制度は活用次第で非常に有効ですが、家族構成や財産状況に応じて慎重な検討が求められます。
配偶者の住まいを守るための手段として、選択肢に入れておく価値は十分にある制度です。
相続対策では「節税」と「生活保障」の両立が重要なテーマです。
特に配偶者が安心して暮らせるようにしながら、将来の相続税負担を抑えるには、バランスの取れたプランニングが求められます。
まず活用すべきは「配偶者の税額軽減」です。
配偶者が法定相続分または1億6,000万円まで相続する場合、相続税はかかりません。
しかしそれを過信してすべてを配偶者に集中させると、後の“二次相続”で子どもたちに多額の相続税が発生する可能性があります。
そこで有効なのが、生前贈与や生命保険の活用、信託の仕組みを取り入れた資産分配です。
例えば、生命保険で配偶者に現金を残し、生活資金を確保しつつ、他の資産は子へ分割するなどの工夫が可能です。
また、相続税対策だけでなく、老後資金・医療・介護費の備えも含めた包括的な設計が求められます。
節税のテクニックに偏らず、「誰がどう使っていくか」という実生活の視点を忘れないことが成功の鍵です。
配偶者の老後を守るためには、相続発生前からの備えが欠かせません。以下の5つは、今すぐ始められる実践的な対策です。
① 家族会議を開く
相続の内容や想いを家族全員で共有することで、トラブルや誤解を未然に防げます。特に配偶者の生活に関する希望は明確に伝えておくことが大切です。
② 財産の見える化
預貯金・不動産・保険・借入など、すべての資産を一覧化し、誰が何を相続するか考えるための土台をつくりましょう。
③ 配偶者名義の資産形成
すべての資産が本人名義の場合、配偶者は相続手続き後まで自由に使えず生活に支障が出ることも。名義分散や保険活用が有効です。
④ 遺言書の作成
法的効力のある公正証書遺言で、配偶者の生活を守る意思を明確に示しておきましょう。
⑤ 専門家に相談
税理士やFP、弁護士などの専門家とともに、二次相続まで見据えた対策を立てることが、配偶者の不安を軽減する大きな一歩になります。
配偶者への相続対策は、単なる財産の分け方ではなく、「家族の未来を守るための準備」です。
相続は亡くなった後の問題と思われがちですが、実際には残される配偶者の老後生活に直結します。
たとえば、住まいや生活費が確保されていないと、遺された配偶者は生活に困窮することも。
また、節税ばかりを優先すると、二次相続で子どもたちに大きな負担がかかるケースも少なくありません。
だからこそ、遺言書や配偶者居住権、生前贈与や保険など、あらゆる手段を組み合わせて、生活の安心と節税のバランスをとる必要があります。
そして、その対策は元気なうちにこそ行うべきです。
相続は「その時が来てから」では間に合わないことも多く、早めの準備こそが最善の対策となります。
配偶者の未来を守ることは、巡り巡ってあなた自身の老後の安心にもつながるのです。
今こそ一歩を踏み出し、具体的な対策を始めましょう。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格) ・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員 ・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定) ・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) ・宅地建物取引士 ・証券外務員1種
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