今回は、退職金(早期退職を含む)の資産運用・資産管理
についてお話しします。
多くの方にとって、退職金は
「人生で一度きりの大きなまとまったお金」です。
これまでの何十年ものお仕事の成果であり、
これからの人生を安心して暮らしていくための大切な資金です。
ただ、その大きさゆえに──
「これを減らしたくない」
「どう運用したらいいかわからない」
「銀行や証券会社からの提案に戸惑う」
というお気持ちを抱える方が少なくありません。
さらに、早期退職の場合には特有の不安もあります。
例えば、
•年金受給開始までの「空白期間」をどう乗り切るのか
•思ったより長くなるかもしれない老後を、退職金でどう支えるのか
といった悩みです。
ここで大事なのは、焦らず「全体像」を描くことです。
退職金を受け取ったその日から、
いきなり運用を始める必要はありません。
まずは、これからの人生で必要なお金を洗い出し、
「守るお金」「育てるお金」を分けて考えることが重要です。
目次
退職金を受け取ると、「減らさないように運用しなくては!」
という気持ちから、すぐに金融商品を選びたくなるものです。
しかし、大切なのは焦らないこと。
まとまったお金が手元にあると、
つい「動かさないと損」という心理になりがちですが、
資産配分やライフプランを考えずに始めると、
リスクを取りすぎてしまうこともあります。
退職金を受け取った後は、金融機関から様々な提案が舞い込んできます。
「特別な金利の定期預金」「退職金専用ファンド」など、
魅力的に見える商品も少なくありません。
ですが、本当に自分に合った資産管理かどうかを
冷静に見極めることが大切です。
相手の提案を鵜呑みにせず、第三者の視点も参考にしましょう。
退職金の運用でよくあるのが、
「一気に大きな金額を投資に回してしまう」というパターンです。
たとえば、退職金の半分以上を外貨建て商品や
不動産投資に投じてしまい、為替変動や空室リスクで
思わぬ損失を抱える例もあります。
運用は分散と段階的な資金投入が鉄則です。
「すべての退職金を運用資金」と考えてしまうのも危険です。
本来は、
・ 当面の生活費や医療費、予備費(安全資金)
・ 中期的な支出予定(安定資金)
・ 長期的な資産形成(成長資金)
の3種類に分けて管理する必要があります。
必要な時に資金が引き出せず、
困ってしまう事態は避けたいですね。
退職金の資産管理は、いわば「人生の第2ステージの土台づくり」です。
大切なのは、一歩立ち止まり、全体を設計してから動くこと。
1. 安全資金 ── 「絶対に減らしたくない生活費・予備費」
これは、当面の生活費、緊急時の予備費、医療費など、
万一のときにも手元ですぐ使える資金です。
・生活費として1〜3年分を確保する
・預貯金や個人向け国債など、元本保証性の高いものに置く
これが安心の土台となります。
2. 安定資金 ── 「中期の支出予定に備える資金」
旅行、住宅のリフォーム、子や孫への贈与など、
5〜10年の間に使う可能性がある資金です。
・リスクは控えめに、ただしインフレ対策も意識
・国内外の債券ファンドやバランス型投信、定期預金などで管理
「使う時期に備えて、なるべく目減りしないように育てる」資金です。
3. 成長資金 ── 「資産寿命を延ばすための長期運用資金」
老後の後半や相続を見据え、資産を育てる部分です。
・長期視点で運用できる資金
・株式、投資信託、REIT、ETFなどで分散投資
ここは「将来の自分や家族のために資産の寿命を延ばす」
役割を担います。
役割分けのポイント
退職金は「どれか一つ」に全額を振り分けるのではなく、
安全資金 + 安定資金 + 成長資金の組み合わせで設計するのが基本です。
また、ライフプランによってこの配分は変わります。
例えば、早期退職で年金開始までの期間が長い方は、
安全資金・安定資金の比率を厚めに考える必要があります。
1,預金・定期預金・個人向け国債
・元本保証があり、安心感が高い
・金利は低めのため、資産の目減り(インフレリスク)には注意
・退職金特別金利の定期預金なども選択肢に
2,投資信託・ETF・株式
・分散投資によりリスクを調整しながら成長資金を育てる
・株式単独は値動きが大きく、退職金の全額を投入するのは危険
3,不動産投資(現物・REIT)
・長期の家賃収入や資産価値を見込む運用
・空室リスク、維持管理費、資産の流動性の低さに注意
・退職金で現物不動産を購入する場合は、地域選び・資産規模を慎重に
4,保険商品(年金保険、外貨建て保険など)
・老後の「年金の上乗せ」に活用できる商品も
・外貨建ては為替リスクがあるため、仕組みをよく理解する必要
・解約時の返戻率や手数料も必ず確認
5,早期退職の場合の「つなぎ運用」
・年金受給開始までの数年間、預金や債券中心で「減らさない」運用を重視
・必要資金の引き出しやすさも大切なポイント
1,一括で大きく投資をしないこと
まとまったお金があると一度に投資したくなりますが、分散・分割で段階的に投資するのが基本です。
2,手数料・コストに注意すること
特に投資信託や保険商品は、運用コスト・販売手数料が資産形成に大きく影響します。数字をしっかり確認しましょう。
3,ライフプランに合った選択をすること
他の人の成功事例がそのまま自分に当てはまるとは限りません。自分の支出計画・家族構成・価値観に合った運用を心がけましょう。
退職金の運用・管理は、ライフプラン(人生設計)
があってこそ初めて意味があるということです。
運用だけを考えると、魅力的な商品や利回りに目が向きがちです。
ですが、「そのお金はいつ・何のために必要なのか?」
という目的が決まっていなければ、適切な資産配分や
商品選びはできません。
1. 収支の見える化(老後資金の全体像を把握)
・年金、退職金、預貯金などの収入源
・日々の生活費、医療費、趣味や旅行の支出予定
・何歳まで・どのくらい資産を持たせたいのか
これを具体的に数値化します。
2. 年金の受給額と開始時期の確認
・公的年金の受給開始年齢をどうするか(繰り下げ、繰り上げの選択肢)
・年金額と生活費の差額をどう埋めるのか
退職金の使い方は、ここが明確になると方向性が見えてきます。
3. 住宅ローンや負債の整理
・住宅ローンが残っている場合、繰上返済をするのか運用を優先するのか
・その他の負債(教育ローン、車のローンなど)の扱いも重要なポイントです。
4. 医療・介護リスクへの備え
・医療費、介護費用の備えは十分か
・保険でのカバー範囲を確認
・現金としてどの程度持つか、運用資産の中でどれだけ確保するか
ライフプランがあると、
・ 必要資金と運用資金の線引きができる
・ 「このくらいのリスクは取れる」という根拠が持てる
・ お金の不安が減り、心に余裕が生まれる
というメリットがあります。
「ライフプランを作るのは面倒そう…」
と思う方もいらっしゃいますが、
基本的な情報を整理するだけでも大きな意味があります。
退職金運用・管理の基本ポイント
1, 焦らないことが何より大切
退職金を受け取ったからといって、すぐに運用を始める必要はありません。
まずは全体像を描くことが安心への第一歩です。
2, 退職金は役割ごとに分ける
・安全資金(生活費、予備費)
・安定資金(中期的な支出予定)
・成長資金(長期運用・資産寿命を延ばす)
この3つのバランスを考えて管理しましょう。
3, ライフプランを作ることから始める
どんな運用をするかは、ライフプランがあってこそ決められます。
・必要な生活費の確認
・年金額と受給開始時期の把握
・住宅ローンや負債の整理
・医療・介護リスクへの備え
これらを一度整理することで、資産運用の方向性が見えてきます。
4, 無理のないリスク管理を心がける
投資額・リスクは人それぞれ。成功事例に惑わされず、自分の安心できる範囲で考えることが重要です。
退職金は、人生の新しいステージのスタート資金です。
だからこそ「まずは現状を整理し、計画を立てる」
この一歩が、将来の安心をつくります。
もし「何から始めればよいかわからない」
「自分に合った資産配分を相談したい」という場合は、
ぜひ一度プロのアドバイスを活用してください。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格) ・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員 ・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定) ・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) ・宅地建物取引士 ・証券外務員1種
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