
【警告】「節税」目的の法人化は失敗する?不動産オーナーの手取りが減る罠
「年間の家賃収入が増えてきたから、そろそろ法人化した方が税金が安くなりますよ」
顧問税理士さんからそうアドバイスを受けて、「それなら会社を作ろうか」と私のところへ相談に来られる不動産オーナー様がよくいらっしゃいます。
しかし、ライフプランのシミュレーションを行った結果、私はしばしばこうお伝えします。
「〇〇さんの場合、法人化はやめておきましょう。かえって老後資金が自由に使えなくなります」
確かに、計算上の「税金」は安くなるかもしれません。しかし、私たちの生活は税率だけで決まるわけではありません。
多くの解説サイトやセミナーでは、法人化のメリット(節税)ばかりが強調されますが、そこには**「手元の自由なキャッシュが減る」「社会保険料が激増する」という副作用**が隠されています。
この記事では、税理士があまり語りたがらない「法人化の3つの落とし穴」と、それでも法人化すべき人の条件を、FPの視点から辛口で解説します。
目次
なぜ、専門家によって意見が食い違うのでしょうか。それは「見ているゴール」が違うからです。
税理士のゴール: いかに「支払う税金」を最小にするか。
FPのゴール: いかに**「自由に使えるお金(手取り)」を最大化**し、老後を豊かにするか。
法人化には、この2つの視点の間に大きなギャップがあります。具体的に3つの「罠」を見ていきましょう。
「法人税率は低いからお得」という言葉には、あるコストが含まれていません。それが**「社会保険料(厚生年金・健康保険)」**です。
個人事業主であれば「国民年金・国民健康保険」ですが、法人化して役員報酬を受け取ると、強制的に社会保険に切り替わります。
ご存知の通り、社会保険料は**「労使折半(会社と個人で半分ずつ負担)」ですが、オーナー会社の場合、会社負担分も実質的には「あなたの財布(会社の売上)」から出ているのと同じ**です。
わかりやすく、課税される所得(報酬)が800万円の場合でざっくり比較してみましょう。
いくら法人化して所得税・住民税が数十万円下がったとしても、この社会保険料の激増分をカバーできなければ、トータルの「手残り」は減ってしまいます。
税金の計算だけを見て、この「見えないコスト」を見落とすと、キャッシュフローは確実に悪化します。
これがFPとして最も懸念するポイントです。法人化とは、**「自分のお金を、他人の財布(法人口座)に移すこと」**と同義だからです。
個人所有の不動産であれば、入ってきた家賃は全額あなたのものです。
「来月、海外旅行に行きたい」「孫に入学祝いをあげたい」と思えば、通帳からすぐに引き出せます。
しかし、法人化すると、家賃はすべて「法人のもの」になります。
社長であるあなた個人が使えるのは、あらかじめ決めた「役員報酬」だけです。しかも、役員報酬は**「年に1回しか金額変更できない」**という厳しいルールがあります。
「急に自分が病気になって、老人ホームの入居一時金で500万円が必要になった」
そんな時でも、会社に現金があるのに、個人としては引き出せない(勝手に引き出すと「役員貸付金」になり、銀行融資や税務調査でペナルティを受ける)という事態に陥ります。
老後生活において、「資産の流動性(使いやすさ)」を失うことは致命的なリスクなのです。
会社は「作る」のは簡単ですが、「畳む」のは大変です。
もし将来、お子さんが「不動産経営なんてやりたくない」と言い出したらどうしますか?
法人が不動産を所有している状態で会社を解散しようとすると、不動産を売却して現金化するか、現物のまま個人に移す必要がありますが、そこには多額の**「譲渡所得税」や「登録免許税」**がかかります。
また、たとえ赤字でも毎年約7万円の住民税(法人住民税の均等割)や、税理士への決算報酬(年間数十万円〜)といったランニングコストは、会社が存在する限り一生続きます。
「とりあえず法人化」は、**「終わりのないコスト負担」**の始まりでもあるのです。
ここまでの違いを整理しました。
「節税」以外の項目がいかに不自由になるかをご確認ください。
| 比較項目 | 個人のまま (青色申告) |
法人化 (会社設立) |
|---|---|---|
| お金の自由度 | ◎ 自由 (全額自分のもの) |
△ 不自由 (役員報酬のみ) |
| 社会保険料 | ○ 安い (国保には上限がある) |
× 高い (給与の約30%※労使込) |
| 税率 | △ 所得が高いと高い (最大55%) |
○ 一定以上なら低い (最大約33%) |
| 赤字の時 | ◎ 税金ゼロ | × 均等割が発生 (年 約7万円〜) |
| 交際費 | △ 厳しい | ○ 経費にしやすい |
| やめる時 | ◎ 廃業届一枚で終了 | × 費用と手間がかかる (解散・清算登記など) |
Q. 妻を役員にして給料を払えば節税になりますか?
A. はい、所得分散効果で税金は下がります。ただし、奥様にも**「社会保険料」**がかかることをお忘れなく。パート収入の壁(106万・130万)を気にするどころか、ガッツリ保険料が引かれるため、世帯全体の手取りが増えるかは綿密な計算が必要です。
Q. 車を社用車にすればお得ですよね?
A. 経費にはできますが、**「プライベートでの使用」**が否認されるリスクがあります。税務調査で「休日のゴルフや家族旅行に使っている」とみなされると、経費として認められない(現物給与扱い)ケースもあるため、厳格な運行記録が必要です。
Q. 結局、家賃収入(利益)がいくらなら法人化すべき?
A. 家族構成にもよりますが、目安として**「課税所得(利益)が900万円〜1,000万円」**を超えてこないと、社会保険料増や税理士報酬をペイできないケースが多いです。「利益500万〜600万」レベルでの法人化は、あまりおすすめできません。
ここまでデメリットを強調しましたが、もちろん法人化が最強の選択肢になるケースもあります。
FP視点で「GOサイン」を出すのは、以下の条件が揃った方です。
不動産オーナーの皆様にお伝えしたいのは、「税金を払いたくない」という一心で、大切な老後資金を不自由な箱(法人)に閉じ込めないでください、ということです。
法人化は、あくまで「手段」です。
目的は、あなたとご家族が、経済的に不安なく、笑顔で暮らすことのはずです。
「うちは法人化すべき?それとも個人のままがいい?」
「税理士には勧められているが、生活費が足りなくならないか心配」
そんな不安がある方は、契約書にハンコを押す前に、一度FPのセカンドオピニオンをご利用ください。
税金の計算だけでなく、**「あなたの人生(ライフプラン)」**を中心にした、損得だけではない最適解を一緒に探しましょう。
「法人化で節税」も一つの手ですが、それによって手元の自由な資金がなくなっては意味がありません。
50代・60代の不動産オーナーに必要なのは、節税テクニックよりも「最後まで安心できる資産管理の設計図」です。
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ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/
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