定年を迎えた後も「まだ働きたい」「収入を増やしたい」と考える方は少なくありません。一方で、年金を受け取りながら働く場合には、在職老齢年金制度によって受給額が調整されることがあります。制度の仕組みを理解せずにフルタイムで働き続けると、「思ったより年金が減ってしまった」というケースも珍しくありません。逆に、収入と年金のバランスを考えて働き方を選べば、家計を安定させながら自由な時間も確保できます。
本記事では、在職老齢年金制度の仕組みや65歳未満・65歳以上の違い、収入との兼ね合い、税金・社会保険料への影響までをわかりやすく解説し、あなたに合った働き方の選択肢を考えるヒントをお伝えします。
目次
定年を迎える60代の方にとって、「これからどのように働きながら年金を受け取るか」は大きなテーマです。近年は、企業の定年延長や再雇用制度の拡充により、65歳まで働き続けることが一般的になってきました。また、健康寿命の延びや「年金だけでは不安」という背景から、70歳以降も働く方も増えています。
しかし、働き方によっては受け取れる年金額に影響が出ることをご存じでしょうか。在職老齢年金制度では、年金と賃金の合計が一定の基準を超えると、年金の一部が支給停止される仕組みになっています。特に65歳未満と65歳以上では基準額が異なり、同じ働き方でも年金の受け取り方に違いが生じるのです。
「せっかく頑張って働いたのに、年金が減ってしまった」という状況を避けるには、まず制度の仕組みを正しく理解することが欠かせません。また、フルタイムで収入を増やすことだけが正解ではなく、パート勤務や自営業、フリーランスなど、ライフスタイルに合わせた多様な選択肢があります。
本記事では、在職老齢年金制度の基本から、収入とのバランス、税金・社会保険料への影響までをわかりやすく整理します。働き方と年金を上手に組み合わせることで、経済的な安心と自由な時間を両立させ、充実したセカンドライフを送るためのヒントを一緒に考えていきましょう。
在職老齢年金制度とは、年金を受け取りながら働く人の収入に応じて、年金の一部または全部が支給停止となる仕組みのことです。年金制度は「老後の生活保障」を目的としていますが、現役世代と公平性を保つため、一定以上の収入がある場合には調整が行われます。
在職老齢年金制度の対象は、厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受給している人です。つまり「年金をもらいながら厚生年金の被保険者として働いている人」が該当します。公的年金の受給開始年齢が原則65歳となった現在でも、60歳から特別支給の老齢厚生年金を受け取る人は対象に含まれます。
支給停止の有無は「賃金(給与や賞与)+年金額」の合計額によって判断されます。
例えば、65歳未満で給与が月25万円、年金が月5万円ある場合、合計30万円となり28万円を超えるため、一部が減額されます。65歳以上の場合は基準額が高く設定されているため、より多く働きながら年金を受け取ることが可能です。
近年、在職老齢年金制度は「高齢者の就労意欲をそがないように」との理由から、基準額の見直しや制度の柔軟化が進められています。特に65歳以上の基準額47万円は、2022年の改正で引き上げられたものです。今後も少子高齢化と労働力不足を背景に、さらなる改正が議論されています。
在職老齢年金制度は複雑に見えますが、基本を押さえれば仕組みはシンプルです。
次章では、この制度と実際の就労収入がどのように関わり合うのかを具体例を交えて解説していきます。
在職老齢年金制度における最大の関心事は、「どのくらい働いたら年金が減るのか」という点です。働くこと自体は収入増につながりますが、一定額を超えると年金が調整されるため、場合によっては「思ったより手取りが増えない」状況が生じることがあります。
減額の判断は「基本月額(標準報酬月額)+総報酬月額相当額(ボーナスを含む平均額)+年金月額」の合計で行われます。
たとえば65歳未満で給与が月25万円、年金が6万円の場合、合計31万円です。基準28万円を3万円超えているため、その半分の1.5万円が年金から減額され、実際の受給額は4.5万円になります。
一見すると「働いても年金が減るから損だ」と思いがちですが、収入全体で見れば損にはなりません。給与25万円+年金4.5万円で合計29.5万円となり、働かなければ得られない収入が増えているからです。
ただし、手取りベースで考えると社会保険料や税金も影響するため、働き方を工夫することで効率を高めることができます。
「働き損」を避けるコツは、単純に「年金が減るかどうか」ではなく、「総収入」と「時間の使い方」のバランスで考えることです。働く時間や収入を調整することで、年金と給与のバランスを最適化することができます。
次章では、実際に選べる働き方の種類と、それぞれのメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。
定年後の働き方は、必ずしも「フルタイム勤務」だけではありません。再雇用制度を利用した継続勤務、パート勤務、さらには自営業やフリーランスといった多様なスタイルが選べます。どの働き方を選ぶかによって、在職老齢年金の調整や手取り収入、生活の自由度に大きな違いが出ます。
重要なのは「総収入を最大化する」ことだけではなく、自分の健康状態や家族の状況、やりたいこととのバランスを考えることです。在職老齢年金で減額があったとしても、総収入が増えるなら「働き損」ではありません。むしろ、時間の使い方と経済的安心の両立をどう実現するかが、セカンドライフの満足度を大きく左右します。
次章では、こうした働き方に加えて、年金と税金・社会保険料の兼ね合いについて詳しく解説していきます。
在職老齢年金制度では、収入と年金の合計額によって支給調整が行われます。しかし、実際の手取り収入を左右するのは、年金と給与の合計だけではありません。税金と社会保険料の負担が加わることで、思った以上に手取りが減るケースがあります。ここを理解せずに働き方を選ぶと、「働いたのに収入が増えない」という誤解につながりやすいため注意が必要です。
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年金収入は「公的年金等控除」が適用され、一定額までは課税対象外となります。しかし給与収入と合算されるため、働いて収入が増えれば税率が上がり、結果的に税負担も増加します。
厚生年金や健康保険に加入して働く場合、給与に応じた保険料負担が発生します。これは在職中の大きなコストですが、一方でメリットもあります。
ただし、一定の労働時間や収入を超えるとパート勤務でも社会保険加入義務が発生するため、「短時間勤務なら保険料は不要」とは限りません。
65歳を超えると、介護保険料は年金から天引きされる仕組みになります。年金額が減額されていても、介護保険料は変わらず発生するため、手取り収入が思ったより減ることもあります。
「給与が増える=手取りも増える」とは限りません。年金調整に加え、税金と社会保険料の負担を含めた実質的な手取り額を把握することが大切です。シミュレーションを行うと、フルタイムで高収入を得るよりも、適度に働きながら年金を維持した方がトータルで有利になる場合もあります。
次章では、こうした制度上の仕組みを踏まえて、ライフプランの視点から最適な就労スタイルを考える方法を解説していきます。
在職老齢年金制度や税金・社会保険料の仕組みを理解したうえで、最終的に大切になるのは「自分のライフプランに合った働き方」を選ぶことです。単純に収入を増やすだけでなく、健康状態や家族の状況、やりたいこととのバランスをどう取るかが、セカンドライフを充実させる鍵となります。
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フルタイムで働き続ければ確かに収入は増えます。しかし、その分自由時間は減り、趣味や家族との時間を犠牲にすることにもなりかねません。年金が一部減額されたとしても、「総収入」と「生活の質」の両面を考えることが大切です。
50代後半から60代にかけては、健康状態が働き方の選択に直結します。無理に働き続けて体調を崩せば、医療費の増加や生活の制約にもつながります。週3〜4日の勤務や短時間勤務に切り替えることで、体力に合わせたペースで働けるのも選択肢の一つです。
夫婦それぞれが年金を受け取る場合、二人分の収入と働き方の組み合わせを検討する必要があります。一方がフルタイムで働き、もう一方がパートで収入を補う形や、両者ともに無理なく働きつつ年金を確保する形など、世帯単位での最適解を考えることが望ましいでしょう。
「もう一度挑戦したい仕事」「地域活動やボランティア」「趣味を活かした副収入」など、セカンドライフにはお金以外の価値も数多くあります。年金と収入のバランスを見ながら、自分らしさを大切にできる働き方を選ぶことが、満足度の高い人生につながります。
ライフプランから働き方を考える際には、①収入の安定、②健康維持、③家族との時間、④自己実現という複数の視点を組み合わせて判断することが重要です。
次章では、実際に年金と働き方を組み合わせたケーススタディを紹介し、具体的なイメージを持っていただけるようにします。
制度や仕組みを理解しても、「自分の場合はどうなるのか」が気になる方は多いでしょう。ここでは、定年後に選ばれることが多い働き方を3つのケースに分けて紹介し、在職老齢年金との関係を具体的にイメージできるようにします。
プロフィール:65歳男性、会社員フルタイム勤務で月収28万円、年金月額12万円
合計収入:40万円
在職老齢年金の影響:基準47万円以内なので、年金は満額受給。
特徴:収入の安定感は抜群ですが、体力的な負担は大きくなりがちです。働けるうちは安心感を得られる一方、健康とのバランスが課題になります。
プロフィール:67歳女性、パート勤務で月収10万円、年金月額12万円
合計収入:22万円
在職老齢年金の影響:基準47万円に遠く及ばず、年金は満額受給。
特徴:収入は控えめですが、その分自由時間を確保でき、趣味や家族との時間を楽しむことができます。健康や生活の質を重視する人に適したスタイルです。
プロフィール:70歳男性、コンサル業を個人事業として継続。月収40万円、年金月額10万円
合計収入:50万円
在職老齢年金の影響:基準47万円を超え、年金の一部が減額され、実受給額は約8.5万円。
特徴:総収入は高水準を維持できますが、仕事量に波があり安定性は限定的。また、健康維持と仕事の両立が重要な課題となります。
大切なのは、「働き損かどうか」だけで判断しないこと。
総収入と生活の質のバランスをどう取るかが、その人にとっての最適な答えを決めるカギになります。
次章では、これまでの内容を総括し、在職老齢年金を理解したうえで「損をしない働き方」を選ぶためのポイントを整理していきます。
定年後の働き方は、単なる「収入を得る手段」ではなく、人生後半をどう過ごすかに直結する重要な選択です。在職老齢年金制度は一見複雑ですが、基本を理解すれば「損をしない働き方」を見つけるための有力な指針になります。
本記事で見てきたように、
つまり、年齢ごとの制度を踏まえて「収入をどこまで増やすか」「どこで自由時間や健康を優先するか」を考えることが大切です。また、給与や年金の合計額だけでなく、税金・社会保険料を引いた後の手取り額を意識することが、現実的な生活設計に直結します。
さらに、働き方は単に経済面だけでなく、心の充実度にも影響します。趣味やボランティアに時間を使う選択も立派なライフプランですし、副収入を得ながら自由度を高める働き方も魅力的です。
最後に強調したいのは、在職老齢年金制度や税制は将来改正される可能性があるという点です。最新の情報を確認しながら、自分や家族に合った働き方を選び続ける柔軟さが必要です。そして、不安や迷いがあれば専門家に相談し、シミュレーションを通じて客観的に判断することが安心につながります。
定年後は「働きながら年金をもらう」という選択肢をどう活かすかで、生活の質が大きく変わります。年金と収入のバランスを理解し、自分らしいセカンドライフを築いていきましょう。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/
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