不動産は相続財産の中でも大きな割合を占め、相続税対策において非常に重要な役割を果たします。
現金と比べて相続税評価額が低くなる特性を活かせば、相続税の負担を大幅に軽減することが可能です。一方で、不動産は分割が難しく、納税資金を現金化しにくいという課題もあります。
そこで本記事では、不動産を使った相続税対策の具体例として「購入による評価減」「借入を利用した投資」「賃貸物件化」「小規模宅地特例」「生前贈与」「不動産小口化商品」など8つの方法を分かりやすく解説します。
さらに、それぞれのメリットと注意点を整理し、最適な資産承継計画を立てるためのポイントを紹介します。
目次
不動産は相続財産の中でも大きな割合を占めることが多く、その特徴を理解することで効果的な相続対策を講じることが可能です。
現金はそのままの金額で相続税評価されますが、不動産は土地が路線価、建物が固定資産税評価額で評価されるため、時価よりも低く評価されるケースがほとんどです。
例えば現金1億円をそのまま相続すると評価額は1億円ですが、その資金で不動産を購入すれば評価額を約7割程度まで圧縮できる可能性があります。この評価差を活用すれば相続税の節税が期待できるのです。
また、収益物件として貸し出すことで、貸家建付地の評価減や借家権割合の控除も受けられ、さらに評価額を下げることができます。
ただし、不動産は分割が難しく、納税のために現金化しづらいという側面もあるため、家族構成や資産全体のバランスを踏まえた計画が必要です。
相続税の計算では、現金や預貯金は額面そのままの評価となりますが、不動産は相続税評価額が時価より低くなる特性があります。
土地は国税庁が定める路線価を基準に評価され、一般的に時価の約7割程度、建物は固定資産税評価額が用いられ、時価の約6割程度に評価されます。
例えば、現金1億円をそのまま相続すると評価額は1億円ですが、その現金で土地や建物を購入した場合、評価額は約6,000万〜7,000万円程度まで下がる可能性があります。この差によって、課税対象となる相続財産の総額を圧縮し、相続税の負担を軽減できるのです。
借入金を活用して不動産を購入することは、相続税評価額を引き下げる効果があります。相続税の計算では、負債は相続財産から差し引くことができるため、借入を行うことで課税対象額を減少させることが可能です。
例えば、4億円の現金資産を持つ場合、そのままでは4億円が評価対象ですが、2億円を借入し投資用不動産を購入(評価額8,000万円)すると、4億円+8,000万円−2億円=2億8,000万円と評価額を圧縮できます。このように借入を組み合わせると大きな節税効果が期待できます。
しかし、この方法
不動産は所有するだけでなく、人に貸すことで相続税評価額をさらに引き下げることができます。これは、土地や建物を賃貸用として利用することで「貸家建付地」「貸宅地」として評価が下がるためです。
例えば、土地を他人に貸す場合は「自用地評価額-(自用地評価額×借地権割合)」という計算が適用されます。仮に自用地の評価額が1億円で借地権割合が60%であれば、評価額は4,000万円に下がります。また、土地にアパートを建て賃貸すると、「自用地評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)」という式で評価され、さらに減額が可能です。建物自体も「建物評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)」で評価が下がります。
相続税対策として非常に効果が高いのが「小規模宅地等の特例」です。この制度を活用すると、一定の条件を満たした土地の相続税評価額を最大80%減額することが可能になります。
例えば、自宅の敷地が1億円と評価されている場合でも、特例が適用されれば評価額が2,000万円まで下がり、大幅な節税効果が期待できます。適用できる土地の種類は、自宅用の宅地、事業用の宅地、賃貸用の宅地などがありますが、それぞれ適用面積や同居要件、事業継続要件など細かな条件があります。また、複数の土地がある場合は適用対象や組み合わせの判断も重要になります。
相続対策として不動産を売却し、現金化することは有効な手段の一つです。不動産の中には、相続税評価額より時価が低く、将来的に需要が減少して資産価値が下がる可能性のある物件があります。
このような不動産は、相続が発生する前に売却しておくことで、相続税評価額を引き下げるだけでなく、得た現金を生活費や生前贈与などに有効活用できます。また、現金は分割しやすいため、相続人同士のトラブル回避にも役立ちます。特に借地権付き土地は、地主からの買い取り要請があるタイミングが売却の好機となる場合が多く、判断のタイミングが非常に重要です。
不動産を生前に贈与することで、相続時の課税対象資産を減らし、相続税の負担を軽減する方法があります。
代表的な手法として、婚姻期間が20年以上の配偶者に居住用不動産を贈与する場合、2,000万円まで贈与税が非課税となる「配偶者控除」があります。これに基礎控除110万円を加えると、最大2,110万円まで非課税で贈与できる計算です。
また、「相続時精算課税制度」を活用すれば、子や孫に対して2,500万円まで非課税で贈与が可能となり、将来的な賃料収入を移転する効果が得られます。相続時には贈与した財産を相続財産として持ち戻して評価するため、贈与時点の評価額で課税が計算されます。この制度を利用することで、賃料収入を早期に子へ移転し、納税資金の準備や資産運用を任せることが可能です。
不動産の中には、相続税評価額に対して時価が低く、資産効率が悪い物件が含まれている場合があります。こうした不動産を売却し、より資産価値が高く、将来性のある不動産に買い替える「組み換え」を行うことで、資産全体の評価を見直し、相続税対策にもつなげることができます。
特に、都心部や再開発が進むエリアの優良物件は、時価が高い反面、安定した賃料収入が見込めるため、長期的な資産形成にも有利です。組み換えを行う際には、譲渡所得税などの売却に伴う税金や諸費用も考慮し、資産価値と税負担をトータルで比較することが大切です。また、複数の不動産を持っている場合は、組み換えによってポートフォリオを整理し、管理負担を軽減する効果も期待できます。
相続対策として近年注目されているのが、不動産小口化商品の活用です。
これは、通常であれば高額で手が届きにくい優良不動産を複数の投資家で共同購入し、1口500万円〜1,000万円程度の小口単位で出資できる仕組みです。不動産小口化商品は不動産と同様の評価基準で相続税評価額が計算されるため、現金よりも低い評価額となり、相続税の圧縮効果が期待できます。
さらに、管理や運営は事業者が行うため、直接アパートやマンションを保有・運営するよりも手間やリスクを抑えられる点も魅力です。特に高額物件や立地の良い物件に分散投資できるため、リスク分散の観点からも有効です。
不動産は相続財産の中でも評価額が時価より低くなる傾向があるため、相続税対策として非常に有効です。
本記事で紹介した「購入による評価圧縮」「借入を活用した投資」「賃貸化による評価減」「小規模宅地等の特例」「生前贈与」「資産整理としての売却」「不動産組み換え」「不動産小口化商品の利用」など、さまざまな方法があります。
これらを上手く組み合わせることで、相続税の負担を軽減し、資産を効率的に次世代へ承継することが可能です。
しかし、すべての対策にはリスクが伴い、不動産市場の変動、空室リスク、税務要件の不適合などの要因で、かえって資産を減らす可能性もあります。
大切なのは、ライフプラン全体を踏まえた総合的な資産設計と、複数の選択肢を比較検討することです。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格) ・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員 ・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定) ・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) ・宅地建物取引士 ・証券外務員1種
コメントフォーム