
「相続税対策でアパートを建てませんか?」
そんな営業トークを聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
確かに不動産を活用すれば、現金をそのまま持つよりも相続税評価額を大きく下げることが可能です。しかし、「税金が安くなること」と「家族が幸せになること」はイコールではありません。
無理な借金をして節税には成功したけれど、その後の返済で老後資金が枯渇したり、流動性の低い不動産を残された家族が分割で揉めたり……そんな「本末転倒」な事例を、私はFPとして数多く見てきました。
そこで本記事では、よくある不動産の相続税対策8つを、単なる節税効果だけでなく、**「老後資金への安全性」と「相続トラブルの少なさ」**という視点で、S〜Cランクに格付けしました。
あなたの家族にとって、本当に必要な対策はどれか。安全な順に見ていきましょう。
目次
(リスク:極低 / おすすめ度:★★★★★)
まずはリスクをほとんど取らず、確実に効果が見込める方法です。他の対策を考える前に、まずはこの2つができているかを確認してください。
これが最強の節税対策です。亡くなった方が住んでいた土地(実家)などは、一定の要件を満たすと評価額が80%も減額されます。
なぜSランクか: お金を出して何かを買う必要がなく、制度を適用するだけで効果絶大だからです。
FPのアドバイス: この特例は「同居している」や「持ち家がない(家なき子)」など、要件が複雑です。「使えるつもりだったのに使えなかった!」とならないよう、生前に要件チェックを済ませておくことが最大の対策です。
手元の現金を、自宅のバリアフリー化や外壁塗装などのリフォーム費用に使います。
仕組み: 現金(評価額100%)が建物(固定資産税評価額)に変わるため、評価が下がります。また、リフォームによって建物の固定資産税評価額は原則上がりません(増築を除く)。
なぜSランクか: 親御さんの住環境が快適になり、資産価値も維持され、さらに相続税も下がる。「三方よし」の使い道だからです。
(リスク:低 / おすすめ度:★★★★☆)
次におすすめなのが、資産の形を変えてスリムにする方法です。
持っているだけで固定資産税がかかり、将来誰も使わないような土地(地方の山林や、古すぎる空き家など)は、元気なうちに売却して現金化します。
FPのアドバイス: 「売ると譲渡所得税がかかるから」と躊躇する方がいますが、相続後に売れない不動産を抱えるリスクの方が遥かに大きいです。現金化して納税資金を確保するのも立派な対策です。
不動産そのものを贈与するのではなく、子が家を建てる・買うための資金を贈与します(住宅取得等資金の贈与の特例など)。
FPのアドバイス: 親の現金を減らしつつ、子のライフプランを直接応援できます。将来値下がりするかもしれない古いアパートを贈与するより、感謝される生きたお金の使い方です。
(リスク:中 / おすすめ度:★★★☆☆)
ここからは、一定の知識とリスク管理が必要になります。自分だけで判断せず、必ず専門家(FPや税理士)のセカンドオピニオンを入れてください。
都心の一等地のビルなどを小口(1口100万円〜など)で購入できる商品です。
メリット: 数億円のビルと同じような評価減効果(約7〜8割減)が得られ、口数単位で分割できるため「争族」になりにくいメリットがあります。
注意点: 元本保証ではありません。また、売りたい時にすぐに売れない(現金化に時間がかかる)流動性リスクがあります。
自宅の一部を賃貸に出すことで、土地の評価額を下げ(貸家建付地)、家賃収入を得る方法です。
注意点: 「他人と同じ屋根の下で暮らすストレス」は想像以上です。また、将来売却する際に買い手がつきにくくなるデメリットもあります。
(リスク:高 / おすすめ度:★★☆☆☆ 2.5)
ここからは、節税効果が非常に大きい反面、失敗した時のダメージも大きい**「上級者向け」**の対策です。
「とりあえずやる」のは危険ですが、長期的なライフプランと収支シミュレーションが完璧であれば、資産を守る強力な選択肢になります。
「借金(マイナスの財産)を作って相続財産を圧縮する」という王道の手法です。
ここがポイント:
更地にアパートを建てると、土地の評価額が約2割下がり(貸家建付地)、建物も固定資産税評価額(建築費の約5〜6割)になるため、相続税を数千万円単位で減らせる爆発力があります。
FPの視点:
成功の鍵は「30年後も生き残れるか」のシミュレーションです。
「節税になるから」という理由だけで建てるのは危険ですが、**「立地が良く、空室リスクを織り込んでも収益が出る」**という事業計画が立つならば、これほど有効な資産防衛策はありません。ハウスメーカーの提案を鵜呑みにせず、第三者の視点で厳しく収支チェックを行うことが必須です。
いわゆる「タワマン節税」です。市場価格(時価)と相続税評価額の乖離(ギャップ)を利用して資産を圧縮します。
ここがポイント:
現金1億円を持っていても1億円の評価ですが、都心のタワーマンションに変えれば、評価額を4,000万円程度(※物件による)に圧縮できる可能性があります。資産の組み換えとして非常に有効です。
FPの視点:
近年、国税庁のルール改正(評価方法の見直し)により、以前ほど極端な節税は難しくなりました。しかし、**「資産価値が落ちにくい都心物件を持つ」**という意味では、依然として有力な選択肢です。
「あからさまな租税回避」とみなされないよう、購入のタイミングや保有期間など、税理士やFPと連携して戦略的に進める必要があります。
ここまで8つの対策をランク付けしてご紹介しましたが、私がFPとして最もお伝えしたいのは、**「相続税を減らすこと自体を目的にしてはいけない」**ということです。
「税金が数千万円安くなった」としても、その対策のせいで手元の現金がなくなり、老後の生活が窮屈になったり、残された家族が遺産分割で揉めてしまっては本末転倒です。
一番の節税対策は、家族が笑顔で暮らせる「余力」を残すこと。
まずはリスクの低い「Sランク」「Aランク」の対策から検討し、それでも対策が必要な場合に初めて、リスクのある方法を慎重に検討すれば十分です。
「ウチの場合は、どこまでやるべき?」 「提案されている対策は、本当に私のライフプランに合っている?」
そんな迷いが生じたら、契約書にハンコを押す前に、ぜひ一度ご相談ください。 特定の不動産や商品を売らない「中立な立場」のFPとして、あなたの資産と家族の想いを守るためのセカンドオピニオンを行います。
難しい節税対策を始める前に、まずは心のモヤモヤを解消しましょう。
多くの人が抱える「10の不安」とその解決策を、このガイドブックで確認してみてください。
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ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/
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