「相続税をできるだけ減らしたい」「子や孫に早めに財産を渡したい」──。
そんな方に活用してほしいのが、生前贈与の非課税制度です。
2025年現在、日本では資産が上の世代に偏りがちですが、非課税制度を活用すれば、若い世代への資産移転をスムーズに行い、同時に相続税対策にもつなげることができます。さらに、住宅取得や教育資金、生活費のサポートなど、目的に応じた制度を組み合わせることで、最大限の節税効果を狙うことも可能です。
ただし、それぞれの制度には上限額や対象年齢、使い切れなかった場合の課税ルールなど注意点があります。また、2024年改正で「相続時精算課税制度」に年間110万円の基礎控除が加わるなど、制度内容も年々変化しています。
本記事では、生前贈与の非課税制度7選をわかりやすく解説し、制度ごとの特徴・メリット・注意点を比較できるようにまとめました。
相続や贈与の最新情報を押さえて、あなたの家族に合った贈与計画を立てていきましょう。
目次
生前贈与の非課税制度とは、贈与税がかからない範囲で財産を子や孫などに渡すことができる仕組みです。
相続発生前に財産を移転することで、相続税の節税効果や若い世代の生活・教育・住宅支援を同時に実現できます。
特に日本では資産が高齢世代に集中しており、この制度を使うことで資産の世代間移転がスムーズになり、経済全体の活性化にもつながるといわれています。
2025年現在、代表的な非課税制度は以下の7種類です。
この7制度を目的別に組み合わせることで、贈与税や相続税の負担を大幅に軽減できます。
2024年の税制改正により、相続時精算課税制度は大きく見直されました。主な変更点は次のとおりです。
これにより、相続時精算課税制度でも、従来のような「一括で多額を贈与する方法」だけでなく、毎年少額を計画的に贈与するという選択肢が可能になりました。
なお、同じ贈与者からの贈与について、暦年贈与と相続時精算課税制度を同時に併用することはできません。
一度相続時精算課税制度を選択すると、その贈与者からは将来にわたって同制度が適用されるため、相続時精算課税制度の選択は慎重に判断する必要があります。
この流れを守れば、贈与の非課税枠を最大限に活かしながら相続税も減らすことが可能になります。
特に2025年は、制度の改正後1年目にあたるため、相続時精算課税の基礎控除新設を前提に戦略を練ることが大切です。
暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた金額に対して課税される仕組みです。
この制度では、年間110万円までの贈与は非課税になる「基礎控除」が設けられています。
例えば、
暦年贈与は受贈者ごとに課税されます。
つまり、受け取る人が複数いれば、それぞれに110万円まで非課税枠が適用されます。
例:
この仕組みを使えば、一度に多額の資産移転が可能です。
2024年改正により、暦年贈与には**「相続開始前7年以内の贈与は相続財産に持ち戻す」**というルールがあります。つまり、贈与から7年以内に贈与者が亡くなった場合、その贈与額は相続財産に加算され、相続税がかかります。
例:
贈与者が亡くなると、その550万円は相続財産に加算される
長期的な相続税対策:早めに開始すれば持ち戻し対象外の贈与額を積み上げられる
生活費や教育費以外の贈与は課税対象になる可能性がある
相続時精算課税制度とは、最大2,500万円まで非課税で財産を贈与できる仕組みです。
贈与時には贈与税がかかりませんが、贈与者が亡くなった時に、その贈与分を相続財産に合算して相続税を計算します。
つまり、この制度は贈与税の負担をなくし、相続時にまとめて精算する制度です。
2024年の税制改正で、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が新設されました。
改正前:
改正後:
この改正により、少額からの計画的贈与も可能になり、制度の利用ハードルが大幅に下がりました。
受贈者:18歳以上の子または孫(推定相続人)
年間110万円の基礎控除は持ち戻し対象外
110万円の基礎控除で小口贈与も簡単
相続時には贈与分も含めて相続税が課税される(節税効果は「納税の先送り」にすぎない)
教育資金や生活資金は、必要な都度・必要な金額を贈与しても贈与税がかからない特例があります。
これは、親や祖父母などの扶養義務者が扶養を目的に行う贈与は課税対象外とされているためです。
つまり、子や孫の生活費や教育費を援助するための資金は、原則として非課税で渡せます。
これらは、必要な時に必要な分だけ贈与するという条件を満たせば、全額非課税になります。
以下のような支出は、生活費や教育費とは認められず、贈与税の対象となります。
高額な贅沢品の購入資金
柔軟に使える:教育費・生活費を幅広くカバー可能
将来の税務調査に備えて支援の目的を明確化しておく
教育資金の一括贈与とは、祖父母や父母が子や孫の教育にかかる資金を一括して贈与し、その金額が一定額まで非課税になる制度です。2025年時点では、上限は1人あたり1,500万円(学校以外の習い事などは上限500万円)です。受贈者は30歳未満であることが条件となります。
資格取得や検定試験の受験料
教育費支払い時に領収書を金融機関へ提出
途中で贈与者が亡くなった場合、残額は相続財産に加算される
子や孫の成長に合わせて計画的に資金を活用できる
贈与資金の流用は不可(生活費や住宅資金には使えない)
父母や祖父母から、子や孫がマイホームを取得するための資金を贈与された場合に、一定額まで非課税となる制度
2025年現在の上限は以下の通りです。
住宅の種類 | 非課税限度 |
一般住宅 | 500万円 |
省エネ・耐震などの優良住宅 | 1000万円 |
既存住宅の増改築費用(要件を満たす場合)
住宅の床面積が50㎡以上(中古住宅の場合は耐震基準を満たすこと)
翌年の確定申告時に「住宅取得等資金の非課税の特例」を適用申告
優良住宅を選べば非課税枠が2倍に拡大
他の制度(おしどり贈与、結婚・子育て資金贈与など)との併用可否を事前に確認する必要がある
配偶者控除(おしどり贈与)とは、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産またはその取得資金を贈与した場合、最大2,000万円まで贈与税が非課税になる制度です。正式名称は「婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産贈与の特例」ですが、夫婦円満を象徴することから「おしどり贈与」とも呼ばれています。さらに、暦年贈与の基礎控除110万円と併用すれば、最大2,110万円まで非課税になります。
居住用不動産の購入資金の贈与
同一の配偶者間でこの特例を利用できるのは一生に一度だけ
翌年の確定申告で「配偶者控除の特例」を適用申告
生前に不動産の所有権移転を済ませられる
相続税の配偶者控除(1億6,000万円まで非課税)と比較し、必ずしも節税効果が高いとは限らない
結婚・子育て資金贈与とは、父母や祖父母が20歳以上50歳未満の子や孫に、結婚や子育てのための資金を贈与した場合、最大1,000万円まで非課税になる制度です。
内訳は以下の通りです。
用途 | 非課税限度額 |
結婚資金 | 300万円まで |
子育て費用 | 700万円まで |
結婚費用(300万円まで)
子育て費用(700万円まで)
医療費(子ども対象)
資金の使途は領収書で証明し、金融機関に提出
支出のたびに領収書を金融機関へ提出
贈与者が亡くなった場合、残額は相続財産に加算
若い世代のライフイベントを包括的にサポートできる
50歳までに使い切らないと課税される
領収書保管のルールを家族で共有
→ 後の税務対応をスムーズに
制度名 | 上限額(非課税枠) | 主な対象 | 年齢制限 | 利用のしやすさ | 主な注意点 |
暦年贈与(基礎控除) | 110万円/年 | 誰でも可 | なし | ★★★★★ | 相続開始前7年以内の贈与は持ち戻し対象 |
相続時精算課税 | 2,500万円 | 子・孫 | 18歳以上 | ★★★☆☆ | 一度選択すると暦年贈与に戻れない |
教育・生活費贈与 | 制限なし(必要都度) | 子・孫 | なし | ★★★★★ | 贅沢品・不動産・投資資金は対象外 |
教育資金一括贈与 | 1,500万円(学校以外は500万円) | 子・孫 | 30歳未満 | ★★★★☆ | 30歳までに使い切らないと課税 |
住宅取得資金贈与 | 一般住宅500万円、優良住宅1,000万円 | 子・孫 | 18歳以上 | ★★★★☆ | 入居期限あり、制度縮小の可能性 |
配偶者控除(おしどり贈与) | 2,000万円 | 子・孫 | なし(婚姻20年以上 | ★★★☆☆ | 一生に一度、住まなければ非課税不可 |
結婚・子育て資金贈与 | 1,000万円(結婚300万+子育て700万) | 子・孫 | 20~50歳未満 | ★★★☆☆ | 領収書管理が必要、期限内使用必須 |
ライフイベント特化型 → 配偶者控除(おしどり贈与)、結婚・子育て資金贈与
贈与税・相続税制度は、2024年改正の影響を受け、選択肢が広がった一方で注意点も増えました。
制度選びでは、以下の3つを基準にしましょう。
相続までの残り年数(持ち戻し対象になる期間を考慮)
複数の制度を組み合わせることで、非課税枠を最大限活用できます。
例1:相続税節税+生活支援
暦年贈与(110万円)+教育・生活費贈与
例2:住宅購入支援+夫婦の資産移転
住宅取得資金贈与(500万~1,000万円)+おしどり贈与(2,000万円)
例3:若い世代のライフイベント全面支援
教育資金一括贈与(1,500万円)+結婚・子育て資金贈与(1,000万円)
生前贈与は制度の選び方次第で、
税理士・相続専門FPなどの専門家に相談しながら、
あなたの家族構成・財産状況・ライフイベント計画に合った贈与プランを作ることが成功の鍵です。
2025年現在、7つの主要な非課税制度を正しく活用すれば、
が同時に実現できます。
制度は目的や条件によって使い分けが必要ですが、組み合わせ次第で非課税枠を最大化できます。
ライフイベント支援 → 教育資金一括贈与、結婚・子育て資金贈与、おしどり贈与
住宅取得資金贈与は将来的に縮小・廃止の可能性 → 利用は早めに
生前贈与は、一見シンプルでも制度の選択や組み合わせ方で節税効果が大きく変わります。
税理士や相続専門FPと連携すれば、
が可能になります。
生前贈与は「贈与して終わり」ではなく、家族の未来をデザインする重要な相続戦略です。
本記事を参考に、2025年の最新制度を上手に使い分け、あなたの大切な資産を次の世代へスムーズに、そして安心して引き継いでいきましょう。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格) ・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員 ・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定) ・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) ・宅地建物取引士 ・証券外務員1種
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