
「親が骨折して入院した。退院後はそのまま施設に入ることになるが、入居費用が高い…」
「もう誰も住まない実家を売却して、そのお金を一時金や月額費に充てたい」
先日、80代のお母様を持つA様から、このような緊急のご相談がありました。
これをお読みのあなたにとっても、明日は我が身、決して他人事ではないはずです。
「実家を売って費用に充てる」
一見、当たり前で合理的な解決策に見えます。しかし、私はA様のお話を伺い、「ある確認」が取れるまで、不動産会社への連絡を待ってもらいました。
なぜなら、この局面で順序を一つでも間違えると、**「実家を売りたいのに、法的に売らせてもらえない」**という最悪の事態に陥るからです。
この記事では、今回ご相談を受けた現場の事例(※プライバシー保護のため一部設定を変更しています)を元に、親の施設入居時に直面する「不動産売却の壁」と、多くの人が見落としている「成年後見制度の落とし穴」について、実務家の視点で解説します。
目次
親の不動産を売却しようと考えた時、立地の良し悪しや査定額よりも先に、絶対に確認しなければならないことがあります。
それは**「お母様の意思確認(判断能力)ができるかどうか」**です。
この一点が、その後のご家族の運命を決定づけます。
この場合は、まだ選択肢が残されています。
ご本人の同意のもと、司法書士立ち合いでの契約や、後述する「家族信託」という仕組みを使うことで、ご家族主導でスムーズに売却し、施設費用を捻出することが可能です。
こちらは非常事態です。
たとえ実の子供であっても、親名義の不動産を勝手に売ることはできません。法的に売却するためには、家庭裁判所に申し立てて「成年後見人(せいねんこうけんにん)」を選任してもらう必要があります。
「じゃあ、後見人をつければすぐに売れるんでしょ?」
そう思われたかもしれません。しかし、ここに**ネット記事や一般的な解説書にはあまり書かれていない「大きな落とし穴」**が存在します。
今回のご相談で、私がA様に最も強くお伝えしたリスク。
それは、**「法定後見人をつけても、裁判所が売却を許可しないケースがある」**という事実です。
成年後見制度の本来の目的は、あくまで「本人の財産を守ること」にあります。
もし、お母様の通帳に、当面の施設費用や入院費を賄えるだけの「預貯金(現金)」があった場合、裁判所はどう判断するでしょうか?
高い確率で、こう判断されます。 「手元に現金があるなら、まずはそこから使いなさい。本人の生活基盤である不動産を、わざわざ今売却する必要性はありません」 これが、成年後見実務における**「売却の必要性」の壁**です。 こうなると、ご家族が描いていた資金計画は崩壊します。
これこそが、制度の壁による「資産凍結」の恐怖です。
もし、裁判所の許可が下りず、実家を売れなくなったらどうなるか。
想像してみてください。
かつて私が相談を受けた別のケース(千葉県・戸建て)では、売却のタイミングを逃したことで、次のような悲劇が起きました。
こうした「金食い虫(負動産)」になるリスクを避けるためにも、**「親が元気なうちに、売れる状態(権限)を整えておく」**ことが極めて重要なのです。
今回のA様の場合、幸いにもお母様との面会で、まだ意思疎通ができる可能性が残っていました。
そこで私は、以下のロードマップを提案しました。
まず医師の立ち会いのもと、お母様の「意思能力」が残っているかを確認します。
【面会時に確認!「意思能力」チェックポイント】
「親の認知度が分からない」という方は、次回のお見舞いでさりげなく以下を確認してください。これができれば、まだ対策が間に合う可能性があります。
(短期記憶と長期記憶が保たれているかの確認)
(「家を売ったら、もうあそこには帰れないんだよ?お金に換えるんだよ?」と聞いて、その意味を理解しているか)
(手が震えていても構いません。自分の名前を認識して、書こうとする意思があるか)
意思能力があれば、即座に司法書士を交えて「家族信託」の契約を進めます。これは、実家の管理・売却権限を、信頼できる家族(今回ならA様)に移す手続きです。
【なぜ「家族信託」なのか? 成年後見との決定的違い】
「家族信託って何がいいの?」という方のために、成年後見制度との違いを比較しました。
| 特徴 | 家族信託 (お勧め) |
成年後見制度 (最終手段) |
|---|---|---|
| 開始時期 | 親が元気なうち (認知症前) |
親が認知症になった後 |
| 不動産売却 | 契約で定めた家族が 自由に売れる |
裁判所の許可が必要 (ハードル高) |
| コスト | 初期費用のみ (ランニングコスト0円可) |
専門家がつくと 毎月報酬発生 |
| 柔軟性 | 家族の事情に合わせて 設計可能 |
本人の財産保護が最優先 (融通利かず) |
ご覧の通り、家族信託は「家族の想い」や「柔軟な資金計画」を優先できる制度です。
「お母さんの介護費のために、相場が良い今のタイミングで実家を売ろう」
こうした経営的な判断ができるのが、家族信託の最大のメリットなのです。
法的な権限(信託契約)を確保した上で、初めて不動産会社と媒介契約を結びます。
A様は**「相談に来て本当によかった!いきなり不動産屋に行って、順序を間違えるところでした」**と胸を撫で下ろされていました。
もし、この初動が遅れ、お母様の症状が進んでしまっていたら、選択肢は「成年後見」しかなくなり、前述の「売却不可リスク」に晒されていたかもしれません。
親の施設入居と実家売却の問題は、「不動産」単体の問題ではありません。
「法律(民法)」「税金」、そして「お金(老後資金の寿命)」が複雑に絡み合っています。
親の骨折や病気は待ってくれません。
「うちはまだ大丈夫」と思わず、お盆や正月に帰省した際、一度ご家族で「実家とこれから」について話し合ってみてください。
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ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/
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