「実家は残す?売る?」FPが教える“負動産”にしないための3つの判断基準

目安時間 8分

「親から引き継いだ土地家屋を守るのが、子供の務めだ」

昭和の時代までは、それが当たり前の価値観でした。

しかし、令和の今は違います。

「不動産(実家)がいらない」という子供世代が急増しているのです。

「うちは駅に近いから大丈夫」「長男がいるから安心」

そう思っているのは親だけで、子供たちは裏で「固定資産税どうするの?」「誰も住まないのに管理できないよ」と頭を抱えているケースを、私は現場で嫌というほど見てきました。

判断を間違えると、大切な資産だったはずの実家が、子供の家計を食いつぶす**「負動産(ふどうさん)」**になりかねません。

この記事では、FP歴15年以上の現場経験に基づき、「実家を残すべきか、売るべきか」を判断するための3つの基準と、子供に迷惑をかけないための「資産の組み替え戦略」について解説します。

なぜ今、「実家」が「負動産」化するのか?

一昔前まで、不動産は「持っていれば値上がりする資産」でした。しかし今は、以下のような「三重苦」のリスクがあります。

1. コストの上昇: 固定資産税に加え、空き家になった途端に管理費(庭木の剪定、防犯、修繕)が発生し続けます。

2. 売れないリスク: 都心の一等地以外は、売りに出しても数年間買い手がつかないことが珍しくありません。

3. 2024年からの義務化: 相続登記が義務化され、「田舎の土地だから放置」ができなくなりました(罰則規定あり)。

 

子供世代にとって、使い道のない実家は**「お金が出ていくだけの金食い虫」**になり得るのです。

【図解で診断】実家を残していい家、売るべき家「3つの基準」

では、ご自宅は「残すべき」でしょうか? それとも「売るべき」でしょうか?

感情論を抜きにした、FPとしてのシビアな判断基準を図解にまとめました。

 

基準 チェック内容(現状) FPの判定
①住む気 子供自身に
「戻って住む意思」がない
(または貸す予定もない)
× 売却を検討
②維持費 固定資産税・修繕費として
「300万円以上」残せない
× 売却を検討
③相続人 相続人が複数いるが
「代償金(代わりの現金)」がない
× 現金化して分割

 

一つでも「×(売却検討)」当てはまる場合、対策を急ぐ必要があります。それぞれの基準について、詳しく見ていきましょう。

基準①:子供自身に「住む気」があるか?(※忖度なしで)

一番危険なのは、「いつか帰ってくるかも」という親の期待です。

子供には仕事があり、配偶者の意向があり、子供の学校区があります。

**「もし私が死んだら、この家どうしたい?」**と単刀直入に聞いてください。

「住まない」「貸すのも面倒」という答えなら、残すべきではありません。

基準②:維持費を賄える「現金」もセットで残せるか?

不動産を相続させるなら、その後の固定資産税や修繕費として、最低でも300万〜500万円の現金をセットで渡せるかが鍵です。

「家だけあげるから、あとは自力でなんとかして」というのは、子供にとって過酷なプレゼントです。

基準③:相続人は「1人」か?

不動産は物理的に分けられません。

子供が2人以上いる場合、長男が不動産をもらえば、次男からは「兄貴だけズルい、俺には現金をくれ」という話になります。

この時、次男に渡す現金(代償金)がないと、結局実家を売って現金を分けることになり、兄弟仲も最悪になります。

FPの現場から:「とりあえず残す」が招いた悲劇のケース

私が実際に相談を受けた「失敗事例」をご紹介します。

【ケース:千葉県の一戸建て(築40年)】

父が亡くなり、母も施設へ。長男は都内のマンション住まい。

「実家を売るのは忍びない」と、とりあえず空き家のまま放置しました。

結果:

  • 毎年15万円の固定資産税と、草むしり代で年間30万円の出費。
  • 台風で屋根瓦が飛び、近隣トラブルで100万円の修繕費が発生。
  • 5年後に売ろうとした時には建物が傷みすぎて「更地渡し」が条件に。
  • 解体費用200万円がかかり、手元にはほとんどお金が残りませんでした。

教訓:

人が住まない家は、驚くべきスピードで朽ちていきます。「迷っている時間」そのものが、資産価値を下げ続けるのです。

解決策:「現金化」して分けるのが一番の優しさ

もし、上記の診断で「売るべき(×)」という判断になった場合、元気なうちに動くことが最大の家族愛です。

  • 選択肢A:売却して「住み替える」広すぎる実家を売却し、駅近のコンパクトなマンションや、サービス付き高齢者住宅へ住み替える。手元に残った現金は、老後の楽しみや医療費に使えます。
  • 選択肢B:売却して「金融資産」に変える。不動産という「分けにくい資産」を、現金や保険という「分けやすい資産」に変えておきます。これなら、子供たちが1円単位で公平に相続できます。

どうしても残したい場合の「防波堤(資金対策)」

「先祖代々の土地だから、絶対に売りたくない!」

そう強く願う場合は、不動産を守るための**「守りの資金(代償分割資金)」**を準備しなければなりません。

 

具体的には、生命保険を活用します。

「家を継ぐ長男」を受取人にした生命保険を用意しておけば、長男はその保険金を次男への代償金(代わりの現金)」として渡すことができ、実家を売らずに済みます。

 

※「不動産を守るための保険活用」については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。

[関連記事:【相続×生命保険】不動産と節税の対策|代償分割と非課税枠の活用術]

(※ここに昨日の記事のURLをリンクカードで貼ってください)

まとめ:売却もまた、一つの「愛情」である

不動産は、活用できて初めて「資産」になります。

誰も住まない家を残すことは、次世代への「負担」の先送りに過ぎません。

  • 子供が住むなら、堂々と残す。
  • 住まないなら、元気なうちに「現金」や「分けやすい形」に変えてあげる。

これが、FPとして提案する「令和の不動産戦略」です。

「うちはどうだろう?」と迷われた方は、手遅れになる前に一度ご相談ください。あなたの資産状況に合わせた「最適解」を一緒に見つけましょう。

 

この記事を読んだあなたへ

「うちはまだ大丈夫」が一番危険です。
不動産が「負動産」になる前に、家族で話し合うべきチェックポイントを、まずこのガイドブックで確認してください。


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執筆者紹介

執筆者:塩川 卓司 (CFP® / 宅地建物取引士 / 証券外務員一種 / 相続アドバイザー) 独立系ファイナンシャルプランナー歴17年。相談実績500件以上。
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ファイナンシャルプランナー塩川

ファイナンシャルプランナー塩川

・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/

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