60代に入ると、健康診断の結果が気になり始めたり、通院や治療の機会が増えてくる方も少なくありません。
「これからどれだけ医療費がかかるのだろう…」そんな不安を抱える方が増えているのが現実です。
実は、医療費の増加は老後資金を圧迫する大きな要因。そのリスクを最小限に抑えるためには、保険の見直しと資産管理の両面からの対策が欠かせません。
この記事では、60代からの医療費リスクにどう備えるべきか、「医療保険の選び方」と「資産戦略」の2つの観点から、具体的なステップをわかりやすく解説します。
目次
60代に入ると、多くの人が健康面の変化を実感し始めます。厚生労働省のデータによれば、医療機関の受診率は60代から急増し、通院頻度・医療費ともに右肩上がりとなります。
高血圧や糖尿病、コレステロール異常といった「生活習慣病」の発症率も高まり、慢性的な通院と薬の服用が日常化していくのが特徴です。
さらに、がんや脳梗塞など重篤な病気が発症するリスクもこの年代から急激に上昇。入院や手術といった高額医療の可能性も現実的になってきます。
もちろん、日本には「高額療養費制度」や「後期高齢者医療制度」といった公的保障がありますが、適用されるまでの自己負担や、対象外の費用(差額ベッド代・先進医療など)はすべて自費。予想以上の出費に戸惑うケースも少なくありません。
また、医療費は“点”ではなく“線”でかかる支出です。たとえ1回の入院費が軽くても、継続的な通院・投薬・再検査が長期にわたって続くことも珍しくないため、備えが甘いと家計への影響は大きくなります。
このように、60代は医療費のリスクが一気に高まる年代。
これからの人生を安心して過ごすためには、「いつか必要になるかもしれないお金」として医療費を“可視化”し、計画的に備えておことが必要不可欠です。
60代は、医療保険の見直しに最適なタイミングです。
というのも、若い頃に加入した医療保険は、当時のライフスタイルや医療事情をもとに設計されており、今の自分に合わない保障内容になっているケースが少なくありません。
たとえば、昔は「入院日額5,000円を60日まで」などの保障が一般的でしたが、現在の医療は短期入院・通院治療が主流。
つまり、「入院日数が多くなければ給付金が出ない」ような保険では不十分になっている可能性があるのです。
また、60代になると医療保険の保険料が急激に上がる商品も多く、無駄に高い保険料を払い続けているケースも見られます。
この段階での見直しによって、必要な保障だけを残し、保険料を節約することが可能です。
具体的な見直しポイントは以下のとおりです:
さらに、公的医療保険との重複を避けることも重要です。高額療養費制度や医療費控除など、公的制度の活用を前提にしたうえで、「自費で負担する部分」を民間保険でカバーするのが最も合理的な設計です。
60代の医療保険は、“備えすぎ”も“備えなさすぎ”もリスクです。今の自分に必要な保障を見極め、無理なく、無駄なく続けられる保険設計に切り替えましょう。
医療費の備えというと、つい「医療保険で全てカバーしよう」と考えがちですが、実はそれは現実的ではなく、コストパフォーマンスの面でも非効率です。
60代以降は医療リスクが高まる一方で、保障を手厚くすると保険料も跳ね上がりやすく、「保険料が家計を圧迫している」という声も少なくありません。
ここで大切なのは、「保険で備えるリスク」と「資産で備えるリスク」を明確に分けて考えることです。
たとえば、がんや心筋梗塞などの重篤かつ高額になりがちな治療には医療保険が有効ですし、先進医療の技術料については、生命保険の先進医療特約でカバー可能です。
一方で、日常的な通院や検査、薬代などは発生頻度は高くても1回ごとの負担は比較的少額。こうした支出まで保険で備えようとすると、どうしても保険料が高くついてしまいます。
そのため、こうした「頻度は高いが金額は少ないリスク」には、すぐに使える現金や流動性の高い資産で備えるのが合理的です。
実際には、次のような組み合わせが効果的です:
厚生労働省の「令和3年度 国民医療費の概況」によれば、65〜69歳の年間医療費の平均は(1人あたり)は約19万8,000円となっています。
この数字を目安に、「生活防衛資金」の一部として2〜3年分の医療費を別枠で確保しておくと、保険に頼りすぎずに安心が得られます。
医療費への備えは、「保険で大きなリスクに備え、日常的な支出は資産でカバーする」という役割分担のバランス感覚がカギ。
この両輪を整えることで、60代からの医療不安はぐっと小さくなります。
医療費の備えを考えるうえで見落とされがちなのが、「介護のリスク」です。
60代は比較的元気に過ごしていても、70代・80代と年齢を重ねるにつれ、介護を必要とする可能性は確実に高まります。
厚生労働省の「令和4年 国民生活基礎調査」によると、65歳以上の高齢者のうち要介護認定を受けている人は約18.3%。
つまり、5人に1人が介護状態になるという現実があるのです。
さらに、在宅介護でも平均で月8〜12万円、施設に入所すれば月15万円以上かかるケースも珍しくありません。
重要なのは、医療費と介護費が同時に、または連続して発生する可能性が高いという点です。
たとえば、脳梗塞や転倒による入院の後、そのまま自宅介護や施設入所につながるケースは決して少なくありません。
つまり、医療と介護は切り離せない支出と考える必要があります。
これを踏まえ、60代のうちに医療費だけでなく介護費も見越したトータル資金計画を立てておくことが重要です。以下のような備えが有効です:
介護費用は長期化するリスクがあるため、「現金だけ」では心もとない場合も。
だからこそ、使いやすさ(流動性)と守りの資産形成(安全性)を両立する運用方針が鍵となります。
医療も介護も、「必要になってから」では手遅れになりかねません。
50代、60代のうちに“医療+介護”をワンセットで備える発想を持つことが、老後の安心を守る最大の対策なのです。
ここでは、医療保険と資産設計を見直すことで、老後の医療・介護への不安を軽減し、生活にゆとりを取り戻した60代ご夫婦の実例をご紹介します。
「保険に頼りすぎないバランスのとれた備え方」が、どのような安心をもたらすのかがよく分かるケースです。
ケース:埼玉県在住のAさんご夫妻(ご主人:63歳、奥様:60歳)
Aさんご夫妻は、定年を迎えるにあたり「今後の医療費や介護費が不安」と感じ、保険と資産の見直しを行いました。
当初は医療保険の保障を手厚くしようと考えていましたが、保険だけに頼ると保険料負担が増えてしまうこと、資産と役割分担する方が効率的であることに気づかれました。
まず見直したのは、加入中の古い医療保険です。
入院中心の保障内容で、短期入院や通院、先進医療に対応していない内容だったため、終身型の医療保険に切り替え。通院や先進医療をカバーしつつ、保険料も月1万円から約6,000円に削減することができました。
次に取り組んだのは、医療・介護に備える資産の再構成です。
Aさんご夫妻は、新NISA(2024年からの新制度)を夫婦でフル活用し、将来の医療費や介護費用に備えた運用体制を整えました。
保険と資産を目的別に使い分けることで、大きな医療費リスクは保険で、日常的な支出は資産で対応できる柔軟な体制が整いました。
Aさんは「以前は“保険で何とかしなきゃ”と焦っていたが、資産と組み合わせることで気持ちにも余裕ができた」と話します。
このように、医療とお金の備えは“保険だけ”でも“預貯金だけ”でもなく、制度や資産を上手に組み合わせることが安心につながります。
60代からの医療費や介護費の増加は避けられない現実です。
しかし、過剰に不安を感じる必要はありません。大切なのは、リスクの内容に応じて「保険」と「資産」を適切に使い分けることです。
このように、「備えすぎず、足りなさすぎず」バランスよく整えることで、60代以降の人生に安心と自由が生まれます。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格) ・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員 ・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定) ・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) ・宅地建物取引士 ・証券外務員1種
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