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FPが解説|法定後見・任意後見・家族信託の違いと選び方【図解&比較表付き】

目安時間 14分

年齢を重ねるにつれて、「もし認知症になったら」「自分の財産はどうなるのだろう」と不安を感じる方が増えています。
実は、判断能力が低下すると預金の引き出しや不動産の売却といった“日常の手続き”さえできなくなることがあります。
その備えとして活用できるのが、「法定後見」「任意後見」「家族信託」の3つの制度です。

これらはいずれも「将来への備え」という点では共通していますが、目的・仕組み・使うタイミングが大きく異なります
自分や家族の状況に合った制度を選ぶことが、安心した老後を送る第一歩です。

この記事では、FPとして多くのご家庭の相続・老後資金対策をサポートしてきた経験をもとに、それぞれの制度の特徴と違いを図解・比較表・事例付きでわかりやすく解説します。あなたやご家族にとって「最も安心できる選択肢」を見つける参考にしてください。

成年後見制度の基本と目的

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない人の権利を守るための仕組みです。
家庭裁判所が関与し、本人の代わりに財産を管理したり、生活をサポートしたりすることで、悪質商法や契約トラブルから守ることを目的としています。

 

成年後見制度には、主に次の2つの支援があります。

① 財産管理

預金や不動産などの資産を安全に管理し、無駄な支出や詐欺被害を防ぐ役割です。

② 身上保護

介護サービスや医療契約、施設入所など、生活面の契約や意思決定を支援します。

 

この制度の根底にある考え方は、「本人の意思を最大限尊重し、本人らしい生活を守る」こと。

 

👉 関連記事:[介護費用と相続の関係|どの財産を使い、何を残すべきか徹底解説]
介護費用の負担と相続資産のバランスをどう取るかを具体例で紹介しています。

そのため、後見人は本人の利益を第一に行動し、定期的に家庭裁判所へ報告する義務があります。

成年後見制度には、次に紹介する**「法定後見」と「任意後見」**の2種類があり、「いつ利用するか」「誰が後見人を選ぶか」「どの範囲で任せるか」が異なります。

 

法定後見制度の仕組みと3つの類型

法定後見制度は、すでに認知症などで判断能力が低下している人を対象とした制度です。
本人または家族が家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が適任者を後見人として選任します。

後見人は、家庭裁判所の監督のもとで本人の財産管理や生活上の契約を代理します。
選ばれる人は家族のほか、弁護士や司法書士など専門職が務めることもあります。

 

判断能力の程度に応じて、次の3段階に分かれています。

類型 判断能力の程度 主な支援内容
補助 軽度の支援が必要 特定の契約について同意・代理
保佐 中程度の支援が必要 財産管理・重要契約の同意・代理
後見 判断能力がほとんどない 財産・生活全般を包括的に代理、取消権あり

 

メリット

  • 家庭裁判所の監督があり、不正利用やトラブルを防ぎやすい
  • 判断能力が著しく低下した場合でも、安心して生活を支援できる

デメリット

  • 柔軟性に欠ける(家裁の許可が必要な場面が多い)
  • 後見人の報酬や手続き費用がかかる(年数万円程度)
  • 家族が後見人になる場合も、定期報告などの負担がある

 

法定後見は「すでに判断能力が低下している人」を守る制度であり、言い換えると“対症療法的な制度”といえます。

 

任意後見制度の仕組みと契約の流れ

任意後見制度は、本人が元気なうちに信頼できる人を選び、将来に備える仕組みです。
契約を公証役場で結んでおくことで、将来、判断能力が衰えたときに効力が発生します。

例えば「もし認知症になったら、○○さんに財産管理をお願いしたい」という希望を公正証書で正式に残しておくイメージです。

 

任意後見には3つのパターンがあります。

類型 概要
将来型 判断能力が低下した時点で発効(最も一般的)
即効型 契約後すぐに効力を発揮(軽度の不安期から)
移行型 生前事務委任→任意後見→死後事務委任と段階的に効力が続く

 

メリット

  • 自分が信頼できる人を選べる
  • 契約内容を自由に設計できる
  • 家庭裁判所の監督下で安心感もある

    デメリット

  • 法定後見のような取消権がない
  • 契約作成に**公証費用(数万円)**が必要
  • 任意後見監督人(家庭裁判所が選任)への報酬も発生する

任意後見は、「まだ元気だけれど、将来のために準備しておきたい」という方に向いています。
つまり、**“予防型の制度”**です。

 

家族信託とは?成年後見制度との違い

「家族信託」は、家族に自分の財産の管理を託す仕組みです。
委託者(親など)が受託者(子どもなど)と信託契約を結び、受益者(利益を受ける本人)を定めて財産を管理・運用します。

 

たとえば「認知症になったら、長男に自宅と預金の管理をお願いする」という契約を元気なうちに結んでおくイメージです。

 

特徴とメリット

  • 判断能力が低下しても資産が凍結されない
  • 不動産の売却・賃貸・修繕・運用がスムーズ
  • 財産管理を家族が主導できる
  • 相続対策・事業承継にも応用可能

一方で、信託契約の内容次第で柔軟にも危険にもなり得るため、
専門家(司法書士・FP・税理士)との設計が重要です。

 

成年後見制度との大きな違い

観点 成年後見制度 家族信託
開始時期 判断能力低下後に発動 元気なうちに契約
管理対象 財産+生活(身上保護) 財産管理に特化
管理主体 家庭裁判所中心 家族主導で契約ベース
柔軟性 制限が多い 高い自由度で設計可能

つまり、家族信託は「対症療法」ではなく**“予防策”**。
特に不動産や金融資産を持つ方には、今後ますます重要な制度です。

 

👉 関連記事:[家族信託と相続前後の財産管理について]
相続開始前後の財産の動きをどう設計するか、実例を交えて詳しく解説しています。

 

【図解】法定後見・任意後見・家族信託の比較表

「どの制度が自分に合うのか分からない」という声をよく聞きます。
ここでは、3つの制度の特徴をまとめた比較表を掲載します。
一覧で見ると、それぞれの“得意分野”と“注意点”が一目で理解できます。

 

📊 比較表:法定後見・任意後見・家族信託の違い

項目 法定後見(補助/保佐/後見) 任意後見 家族信託
主目的 財産管理+身上保護(介護・医療・生活契約など) 本人の意思を尊重しながら財産管理・生活支援 財産管理・運用・処分に特化(柔軟な活用が可能)
開始条件 判断能力が低下した後、家庭裁判所が選任 元気なうちに契約し、判断能力低下時に発効 元気なうちに信託契約を締結して開始
権限 家庭裁判所の審判で定める(取消権あり) 契約内容で定める(取消権なし) 契約内容で定める(受託者が権限行使)
監督 家庭裁判所が監督(必要に応じ監督人を選任) 任意後見監督人が必ず付く 信託監督人・受益者代理人を任意で設置可
柔軟性 低い(家裁許可が必要な手続きが多い) 中(本人意思を反映しやすい) 高(契約設計次第で自由度大)
費用の目安 申立費用数万円+後見人報酬(年数万円) 公証費用数万円+監督人報酬(月数千円〜) 契約作成費用(数十万円)+登記費用等
向くケース 身上保護を重視・単身で生活支援が必要 信頼できる人に自分で託したい 不動産や金融資産を柔軟に動かしたい
留意点 柔軟性が低く手続き負担あり 取消権がない/監督人コスト発生 契約内容次第でトラブルの余地もある
併用 家族信託で財産管理、後見制度で生活支援を補うなど併用が有効

 

一言まとめ

  • 法定後見:裁判所主導で「守る制度」
  • 任意後見:自分主導で「備える制度」
  • 家族信託:家族主導で「動かす制度」

【実例で理解】3つのケーススタディ

ここでは、実際の相談現場でよくある3つのケースを紹介します。
自分や家族の状況に近いパターンを見つけて考えてみましょう。

① 不動産を持つ高齢夫婦の場合

夫婦で持ち家と賃貸アパートを所有。
夫が認知症になった場合、修繕や賃貸契約の更新が難しくなる心配がありました。

👉 家族信託+任意後見を組み合わせることで、
- 不動産管理は長男(受託者)が担当
- 日常生活の支払いなどは任意後見人がサポート
この仕組みにより、資産が凍結されず、介護費用も安定して確保できました。

 

② 一人暮らしの高齢女性の場合

家族が遠方に住んでおり、近い将来の介護や入院が不安。
「詐欺被害も怖い」と感じていました。

👉 **法定後見(保佐型)**を利用することで、
家庭裁判所の管理下で安全な財産管理が可能に。
信頼できる専門職が後見人となり、安心して生活できるようになりました。

 

③ 子どもが遠方・財産が多いご家庭

株式・不動産・預金など資産が多く、相続対策も視野に。
ただし子どもたちは全国各地におり、管理が難しい状況。

👉 家族信託+法定後見の併用で設計。
資産の管理運用は家族信託で対応し、
介護や医療契約などの身上保護は後見制度で補完しました。

 

どの制度を選ぶべきか?判断のポイント

それぞれの制度には「得意分野」があります。

下の早見表を参考に、ご家庭の状況に合う選択肢を考えてみましょう。

判断軸 おすすめ制度
生活・介護を重視したい 法定後見
自分で後見人を選びたい 任意後見
不動産・資産を活用したい 家族信託
両方をカバーしたい 家族信託+後見の併用

 

判断のコツ

  • 本人の希望を尊重する
  • 家族の距離感・負担感を考慮する
  • **資産の種類(現金か不動産か)**で選択肢を絞る
  • 早めの準備が何より重要

認知症発症後では選べない制度もあります。
元気なうちに「どの形で支えてほしいか」を家族と話しておくことが、何よりの備えです。

 

👉 関連記事:[親が元気なうちに始める「相続対策」5ステップ]
準備の始め方を具体的に知りたい方はこちらもご覧ください。

 

よくある質問(FAQ)

Q1. 認知症になる前と後で、選べる制度は変わりますか?
→ はい。判断能力があるうちは「任意後見」や「家族信託」が利用できますが、
低下した後は「法定後見」しか使えません。

Q2. 家族信託と後見制度は併用できますか?
→ 可能です。財産管理は家族信託、介護や入院契約などの身上保護は後見制度、
というように役割分担するご家庭も増えています。

Q3. 不動産を売却するならどの制度がいい?
→ 機動性を重視するなら家族信託が便利です。
法定後見では家庭裁判所の許可が必要となるため、時間がかかる場合があります。

Q4. どの制度にも費用はかかりますか?
→ はい。契約書作成・申立・監督人報酬など、それぞれに費用がかかります。
ただし“資産を守る保険”と考えれば、十分に価値があります。

 

まとめ|制度を“選ぶ”ことが老後の安心につながる

  • 法定後見:裁判所が関与し、厳格に本人を守る
  • 任意後見:自分の意思で信頼できる人に託す
  • 家族信託:資産を凍結させず、自由度高く管理できる

3つの制度はいずれも「安心して老後を過ごすための備え」です。
大切なのは、「自分と家族の将来像に合う制度を選ぶ」こと。
複数をうまく組み合わせることで、より柔軟で安心なサポート体制をつくることもできます。

 

🔹まとめの一言

「備え」は、早いほど自由度が広がります。
家族の笑顔と安心のために、いまから“わが家の制度設計”を考えてみませんか。

 

執筆者紹介

執筆者:塩川 卓司 (CFP® / 宅地建物取引士 / 証券外務員一種 / 相続アドバイザー) 独立系ファイナンシャルプランナー歴17年。相談実績500件以上。

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ファイナンシャルプランナー塩川

ファイナンシャルプランナー塩川

・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/