退職金で家を買うのは失敗?60代夫婦が選んだ「10年待ち」戦略

目安時間 9分

「退職金を機に、長年の賃貸暮らしから持ち家へ」 そのような希望を胸に、当事務所を訪れたF様ご夫婦(夫61歳・妻54歳)。

しかし、詳細なライフプラン・シミュレーションを経て、導き出した結論は、**「今、購入するのは見送る」**というものでした。

資金的に可能であるにも関わらず、なぜあえて「買わない」という選択に至ったのか? そこには、昨今の不動産市況、そして50代・60代特有のライフステージの変化を深く見据えた、**「10年後の『真の安心』を手にするための戦略」**がありました。

今回は、「定年後に後悔しないライフプランの原則」を、F様ご夫婦が実際にどう捉え、将来の不安を回避されたのか。その**【ご決断の軌跡】**を実例としてご紹介します。 一般論ではない、現場で導き出された「50代・60代の賢明な選択」をご覧ください。

【相談事例】退職金で「終の棲家」を買いたいF様ご夫婦

【ご相談者のプロフィール】

  • 夫(61歳): 60歳で定年退職。退職金を受け取り、現在は別の会社で再雇用(収入ダウン)。
  • 妻(54歳): 60歳まで働く予定。
  • お子様: 大学生2名(21歳・20歳)。学費の支払いはあと少し続く。
  • 住まい: ずっと賃貸暮らし。

「今まで社宅や賃貸だったので、最後は自分たちの家が欲しいんです」

退職金というまとまった資金が入ったことで、ご夫婦は購入に前向きでした。希望エリアは、現在の生活圏内(都心へのアクセスやお子様の通学に便利な場所)。

しかし、ここからF様ご夫婦の「常識」が覆されていきます。

原則① 老後資金の見える化:予算4,000万円の「現実」を知る

定年後の生活設計で最初に行うべきは、「感情」ではなく「数字」で見ることです。

シミュレーションで見えた「限界額」

まず、F様ご夫婦の資産状況を整理しました。

  • 現在の貯蓄額+退職金
  • 今後の再雇用・パート収入
  • 年金受給見込み額(夫婦合算)
  • 残りの教育費(大学2名分)

ここから「95歳まで生きる」と仮定して逆算すると、老後資金を枯渇させずに住宅に回せる限界予算は**「4,000万円」**と判明しました。

これ以上出すと、80代で貯蓄が尽きる「老後破綻」のリスクが一気に高まります。

4,000万円で買える家の現実

しかし、現在の不動産高騰相場で、ご希望のエリアの4,000万円の物件を探すと…

  • 築年数が古すぎる(築35年以上、耐震・配管リスクあり)
  • 駅から徒歩20分以上(老後の足がない)
  • 狭小住宅(4人家族には窮屈)

「帯に短し襷に長し」。4,000万円という大金を出しても、手に入るのは「妥協の塊」のような物件でした。

ここで多くの人は「予算を上げる(無理をする)」か「場所を妥協する」かで迷います。しかし、私は第三の選択肢を提示しました。

原則② 住まいの最適化:なぜ「今すぐ購入」は失敗するのか?

私が提案したのは、「購入の断念」ではなく「購入時期の戦略的先送り」です。

なぜなら、F様ご一家は今まさに「家族のサイズ」が変わる直前にいるからです。

今買うと「無駄」が出る

現在はお子様が2人いますが、21歳と20歳。あと数年〜10年以内には独立して家を出ていくでしょう。

今、慌てて「4人で住める広さ(3LDK〜4LDK)」を高い金で買う必要がありますか?

子供部屋にお金を払うのは、あと数年だけです。その後は「物置部屋」のローンを払い続けることになります。

10年後なら「コンパクト」でいい

10年後(夫71歳・妻64歳)になれば、夫婦2人だけの生活です。

その時なら、**「50㎡程度の2LDK(または1LDK)」**で十分快適に暮らせます。

必要な坪数が減れば、同じ4,000万円(あるいはもっと安く)でも、駅近でグレードの高い、本当に住みやすい物件が選べるようになります。

原則③働き方の選択:10年後に「縛り」が消えるのを待つ

3つ目の原則は、「場所の自由」を手に入れることです。

現在はご主人や奥様の通勤、お子様の通学を考えて「今のエリア」にこだわっています。

しかし、10年後はどうでしょう?

  • ご主人は完全リタイア。
  • 奥様も仕事のペースを落としている。
  • お子様は独立済み。

つまり、「毎日駅に通う必要」も「都心に出る必要」もなくなっている可能性が高いのです。

「現役時代の便利な場所」と「老後に住みやすい場所」は違います。

10年後なら、少し郊外でも緑が多く、物価が安く、医療施設が充実しているエリアなど、選択肢は無限に広がります。

2035年問題(不動産市場の緩和)

さらに、これからの10年で「団塊の世代」からの相続が本格化します。

今は供給不足で高騰していますが、10年後は相続で手放される中古住宅が市場に溢れ、価格が落ち着く**「買い手市場(2035年問題)」**になると予測されます。

焦って高値掴みするより、市場が味方になるのを待つのが賢明です。

原則④ 医療・介護リスク:70代の生活動線を見据える

F様には、「今買うなら坂の上の戸建て」という候補もありました。

しかし、70代・80代になれば足腰は弱り、車の運転も難しくなります。

「眺めがいいから」と選んだ坂の上の家が、将来**「陸の孤島(買い物難民)」**になるリスクがあります。

10年後に購入するなら、以下のような**「老後仕様」**の物件を冷静に選べます。

  • 坂道のないフラットなアプローチ
  • 病院やスーパーへ徒歩やバスで行ける立地
  • バリアフリー対応のマンション

「今欲しい家」ではなく、「最期まで住める家」を選ぶ。

そのためにも、自分たちの身体機能がどう変化するかをリアルに想像できる、70代手前での購入が理にかなっています。

原則⑤ 家族との共有:夫婦で見つけた「10年後の正解」

F様ご夫婦は、このシミュレーション結果を持ち帰り、お子様たちとも話し合いました。

すると、お子様からは意外な反応が。

「僕たちも就職したらどこに住むか分からないし、実家に部屋はいらないよ。二人が楽に暮らせるのが一番だよ」

この言葉で、ご夫婦の迷いは吹っ切れました。

「子供のために広い家を」というのは、親の勝手な思い込みだったのです。

結論:退職金は「家の頭金」ではなく「運用の種銭」にする

F様ご夫婦の最終判断は、次の通りです。

  1. 今は賃貸継続:
    子供が独立するまでは、今の慣れ親しんだ賃貸に住み続ける。身軽さを維持する。
  2. 退職金は運用へ:
    「頭金」として消費してしまうはずだった退職金は、これからの10年間、手堅く運用して育てる。
  3. 10年後にキャッシュで購入:
    10年後、運用で増えた資金を使い、その時の夫婦2人にピッタリの「終の棲家」を、ローンを組まずにキャッシュで賢く買う。

「買えない」から「待つ」のではありません。
**「より良い買い方を選んだ」**という前向きな決断でした。

まとめ:焦って買うより、賢く待つ

「定年=家を買う」という固定観念に縛られる必要はありません。

ライフプランシミュレーションを行えば、F様のように**「今は待つことが正解」**というケースが見えてきます。

  • 今の予算で買える物件に納得がいかない。
  • 子供の独立が近い。
  • 老後の生活スタイルがまだ定まらない。

一つでも当てはまるなら、
“今は買わない”という選択が、資産寿命を延ばす可能性があります。

買うか・買わないかの前に、
一度ライフプランを数字で整理してみませんか?

 

 

執筆者紹介

執筆者:塩川 卓司 (CFP® / 宅地建物取引士 / 証券外務員一種 / 相続アドバイザー) 独立系ファイナンシャルプランナー歴17年。相談実績500件以上。
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ファイナンシャルプランナー塩川

ファイナンシャルプランナー塩川

・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/

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