「退職金でローン完済」は正解?50代夫婦が第二の人生で陥る「お金と会話」の3つの落とし穴

目安時間 12分

「子どもが独立したら、夫婦でのんびり旅行でもしよう」

「退職金が入れば、老後の資金繰りはきっとなんとかなる」

もし、そんなふうに楽観的に構えているとしたら、少し危険信号かもしれません。

FPとして多くの50代・60代のご相談を受けてきましたが、実はこの時期こそが**「人生最大の分岐点」**だからです。

長年の子育てや仕事という「共通のミッション」がなくなった途端、夫婦の会話がなくなり、お互いの考えている老後プランが全く違っていたことに気づく――。

いわゆる**「定年後の夫婦危機」**です。

  • 夫は「田舎でのんびり暮らしたい」と言い出すが、妻は「便利な都会で友達と遊びたい」と思っている。
  • 夫は「退職金で住宅ローンを完済しよう」と思っているが、妻は「手元の現金がなくなる不安」を感じている。

この記事では、漠然とした精神論ではなく、FPの視点から**「50代夫婦が陥りやすい『お金と住まい』の具体的な落とし穴」と、それを回避するための「夫婦会議の進め方」**を解説します。

落とし穴①:退職金頼みの「住宅ローン一括返済」

50代後半の方から最も多く寄せられる相談の一つがこれです。

「退職金が2,000万円出るので、残りの住宅ローン1,000万円を一括で返そうと思います。利息も浮くし、スッキリしますよね?」

気持ちは痛いほど分かりますが、FPとしては**「ちょっと待った!」**と言わざるを得ないケースが大半です。

現金(キャッシュ)こそが最強の防波堤

老後の生活で最も恐ろしいのは、「想定外の出費」です。

病気、介護、実家のリフォーム、子どもの結婚援助……。こうした時に頼りになるのは、完済した家(不動産)ではなく、すぐに使える「現金」です。

「借金ゼロで貯金500万円」の老後より、「借金はあるが手元に1,500万円ある」老後の方が、選択肢は圧倒的に広くなります。

【検証】「完済してスッキリ」vs「現金キープ」

わかりやすく、以下の条件で比べてみましょう。

状況

  • 手元の貯蓄: 2,000万円
  • 住宅ローン残債: 1,000万円

 

A:退職金で一括完済した場合

  • ローン残高:0円(毎月の返済なし)
  • 手元に残る現金:1,000万円

B:完済せず、そのまま払い続ける場合

  • ローン残高:1,000万円(毎月コツコツ返済)
  • 手元にある現金:2,000万円

確かにAは「借金ゼロ」で気持ちがいいですが、Bには**「2,000万円の現金」**という圧倒的な安心感があります。

もし明日、ご家族が大病を患って「500万円の先進医療が必要」と言われたら? 実家が台風で被災して修繕費が必要になったら?

Aの人は残りが500万円になり心許ないですが、Bの人はまだ1,500万円残ります。

老後において**「現金」は、あらゆるトラブルから身を守る「万能の盾」**です。

住宅ローンの一括返済をおすすめしない「もう一つの理由」

手元にお金を残すべき理由は、緊急時の備えだけではありません。

焦って完済してしまうことで、**「お金を増やせる機会(運用益)」**まで捨ててしまうことになるからです。

一般的に、住宅ローンは個人が借りられる中で**「最も低い金利」**でお金を借りられる制度です。

一方で、退職金を長期で分散投資(NISAなど)に回した場合の期待リターンは、住宅ローンの金利を上回る可能性が高いのが通例です。

「低い金利でお金を借りたまま、手元の資金はそれ以上の利回りで運用する」

これこそが、資産を効率よく増やすための鉄則です。

もし退職金でローンを全額返済してしまうと、借金はゼロになりますが、同時に「運用して資産を増やすための元手(種銭)」もゼロになってしまいます。

「もし金利が急激に上がったら?」

という不安もあるでしょう。しかし、手元に現金さえ持っていれば、**「金利が上がったタイミングで、その時にまとめて返す」**という選択ができます。

逆に、今あわてて返済して手元資金がなくなってしまうと、その後どんなに金利情勢や経済状況が変わっても、もう打つ手はありません。

「現金を持っている人」が一番強い。

変化の激しい時代だからこそ、この選択肢(自由度)を手放さないようにしてください。

 

落とし穴②:「夫婦の夢」のズレを放置する

「定年後は夫婦でどう過ごすか?」

この問いに対して、夫婦で全く違う景色を見ていることがよくあります。

【よくある相談事例】

夫の夢:

「退職したら、蕎麦打ちでもしながら田舎に移住したい」

妻の本音:

「今まで散々家事をやってきたんだから、老後は便利な街で、自分の友達とランチや旅行を楽しみたい。田舎で夫の世話をするなんて真っ平ごめん」

このズレを放置したまま定年を迎えると、夫が家にずっといること自体がストレスになる「主人在宅ストレス症候群」や、最悪の場合は熟年離婚に発展しかねません。

お金の計算をする前に、まずは**「お互いが思い描くライフスタイルのすり合わせ」**が不可欠です。

(コラム)なぜ、夫は「今日のお昼なに?」と聞いてしまうのか

「定年後、ずっと家にいる夫がストレスだ」。これは、妻側の相談でトップ3に入る悩みです。

現役時代、会社という「居場所」と「役割」があった男性ほど、退職後にそれを失った喪失感を家庭で埋めようとします。結果、妻に依存し、「今日のお昼は?」「どこ行くの?」と管理しようとしてしまうのです。

一方、地域や友人とのネットワークを持ち、家事もこなしてきた妻にとって、夫は「手のかかる大きな子供」に見えてしまいます。

50代のうちに夫がやるべきは、退職金の計算よりも**「会社以外のコミュニティ作り(趣味、地域活動)」と「自分の昼食くらい自分で作るスキル」**の習得かもしれません。


落とし穴③:ダブルインカム夫婦の「ドンブリ勘定」

共働きで世帯収入が高かったご夫婦ほど、老後に苦労するパターンがあります。

現役時代は「お互いの財布は別々」で、生活費さえ出し合っていれば貯蓄は各自にお任せ、というスタイルだった場合です。

いざ年金生活に入り、収入がガクンと減った時に、

「えっ、あなたはもっと貯めていると思っていた」

「俺の退職金は俺のものだ」

といったトラブルが勃発します。

老後は「世帯全体」で資産寿命を延ばしていく戦いです。

50代のうちに一度、**お互いの資産状況(預金、保険、投資)をガラス張りにする「資産の棚卸し」**を行ってください。

解決策:これからの10年を描く「夫婦未来ノート」

では、どうすればこれらの落とし穴を避けられるのでしょうか?

おすすめしているのが、頭の中にあるイメージを書き出す「夫婦未来ノート」の作成です。

ノートといっても、形式は自由です。以下の3つの項目について、別々の紙に書き出し、あとで答え合わせをしてみてください。

  1. 住まい:
    どこに住みたいか?(今の家? 住み替え? 施設?)
  2. 働き方:
    いつまで働きたいか?(完全リタイア? バイト? ボランティア?)
  3. 楽しみ:年間いくらくらい遊興費を使いたいか?(旅行、趣味)
    ポイントは、「できる・できない」ではなく**「やりたい」**を書くこと。

そして、互いの違いを否定しないことです。

「あなたはそう思っていたんだね」と知るだけで、お金の使い方の優先順位(予算配分)が決まってきます。

予算が決まれば、FPは「そのためにはこれくらい運用が必要です」「ローンはこのペースで返しましょう」と、具体的な設計図を描くことができます。

50代夫婦の「よくある迷い」Q&A

Q. 家が広すぎるので住み替え(ダウンサイジング)を検討しています。持ち家は売るべき?

A. 「売却」だけでなく「賃貸に出す」選択肢も検討を。

都心部など立地が良い場合、売ってしまうと二度と同じ条件では買えません。自宅を賃貸に出して家賃収入を得ながら、自分たちはコンパクトな賃貸に住むという方法もあります。ただし、築年数やエリアによるので、不動産に強いFPに試算してもらうのが確実です。

Q. 今からiDeCo(イデコ)やNISAを始めても遅くないですか?

A. 全く遅くありません!

「人生100年時代」と言われる今、60歳以降も資産運用期間は20年以上続きます。特に50代は資金力があるため、iDeCoの所得控除(節税)メリットを最大限に活かせます。ただし、60代で使う予定の資金まで投資に回さないよう、配分には注意が必要です。

Q. 子供への資金援助(結婚・住宅)はどこまでしていい?

A. 「自分たちの老後資金」を確保した後、余った分だけです。

親心として援助したくなりますが、それによって親が老後破産し、将来子供に面倒を見てもらうことになっては本末転倒です。「ここまでは出せるけど、これ以上は無理」というラインを、FPと一緒にシビアに引いておくことをお勧めします。

まとめ:第二の人生は「なんとなく」では乗り切れない

子どもが独立した後の「第二の人生」は、現役時代よりも長く続く可能性があります。

なんとなく過ごしていると、あっという間に資産も健康も目減りしていきます。

  • 退職金の使い方を間違えない(完済より、手元の流動性と運用)
  • 夫婦のビジョンをすり合わせる
  • 家計を「老後モード」に切り替える

この3つを意識するだけで、将来の不安は大きく減らせます。

「うちは会話が少なくて……」という方は、第三者であるFPを交えて「マネー会議」をするのも一つの手です。

感情論にならず、数字という客観的な事実をもとに、冷静に未来を話し合うことができます。

最高の「第二の黄金期」を迎えるために、まずは夫婦でペンを取り、未来の景色を共有することから始めましょう。

 

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執筆者紹介

執筆者:塩川 卓司 (CFP® / 宅地建物取引士 / 証券外務員一種 / 相続アドバイザー) 独立系ファイナンシャルプランナー歴17年。相談実績500件以上。
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ファイナンシャルプランナー塩川

ファイナンシャルプランナー塩川

・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/

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