【60代独身】賃貸が得でも、私が「持ち家」を勧めた理由

目安時間 10分

「今のマンション、更新はできたけど…80歳になっても貸してくれるだろうか?」

年末、私の事務所に駆け込まれた60歳の独身女性(A様)は、そんな不安を口にされました。

A様はバリバリ働いてこられた方で、十分な金融資産をお持ちです。今のままでも生活に困ることはありません。

しかし、「孤独死リスクなどで、高齢者の入居を拒否されるのではないか?」という漠然とした不安が、日増しに強くなっているとのこと。

世間ではよく**「賃貸か持ち家か、どっちが得か?」**という論争があります。

しかし、50代・60代、特におひとりさまの住まい選びにおいて、その「損得勘定」はもはや意味をなしません。

今回は、年末に立て続けにご相談いただいた「60代独身・資産はあるけど住まいが不安」という実例をもとに、**「損をしてでも持ち家を買うべきケース」**について、FPの視点で解説します。

【実録】「賃貸の方が圧倒的に得」な今の不動産市況

まず、FPとして冷静な数字の話をします。

現在、都市部のマンション価格は高騰し続けています。一方で、賃貸の家賃相場は、物件価格ほど急激には上がっていません。

これは、家主(オーナー)からすれば「利回りが低い(儲からない)」状態ですが、借りる側からすれば**「買うより借りた方が、コストパフォーマンスが良い」**状態です。

A様の場合も、ライフプランシミュレーションを行いました。

  • 購入する場合: 物件価格が高騰しており、諸費用や維持費を含めると資産の減りが早い。
  • 賃貸のままの場合: 家賃はかかるが、購入資金を運用に回せるため、資産寿命は長く保てる。

数字だけで見れば、**「圧倒的に賃貸のままがお得」**という結果が出ました。

通常、FPならここで「ですから、無理して買わずに賃貸で行きましょう」とアドバイスします。

しかし、最終的に私はA様にこう伝えました。

「Aさん、数字上は損ですが、マンションを買いましょう」

シミュレーション結果:「買うと損します」。でも…

なぜ、FPの私が「損する選択」を勧めたのか?

それは、A様にとって一番必要なものが「お金を増やすこと」ではなく、**「終の棲家の不安を消すこと(心の平穏)」**だったからです。

 

【公開】A様のライフプラン・シミュレーション結果(90歳想定)

実際に行った試算(90歳まで生きると仮定)の概算をご覧ください。

パターンA:賃貸のまま(家賃14万円/月)

  • 30年間の家賃総額:5,040万円
  • 更新料・引っ越し予備費:約260万円
  • 総住居費:約5,300万円
  • ★メリット: 手元のキャッシュ(現金)が減らないため、運用益でさらに資産寿命が延びる。

パターンB:中古マンション購入(物件価格5,600万円)

  • 物件価格+諸費用:約6,000万円
  • 30年間の管理費・修繕積立金:約1,500万円(※値上がり考慮)
  • 固定資産税:約500万円
  • 総住居費:約8,000万円
  • ★デメリット: 賃貸より**「2,700万円」**も多くコストがかかる。さらに手元の現金が一気に減るため、運用の複利効果も薄れる。

誰がどう見ても、経済合理性だけなら**「パターンA(賃貸)」**が正解です。

「2,700万円の損」をしてでも、A様はなぜBを選んだのか?

それは、次にお話しする「高齢者の賃貸事情」という現実があったからです。

今のA様には、以下の「2つの事実」がありました。

  1. 損得で言えば「賃貸が得」だが、購入しても「老後資金は枯渇しない(ライフプランは破綻しない)」だけの十分な資産がある。
  2. 「更新を断られるかも」という不安を抱えたまま、あと30年生きるのは精神的に辛い。

大事なのは「どっちが得か」ではありません。

「得じゃなくても、その“安心”が欲しいかどうか」。

そして、**「その安心を買っても、人生が破綻しないかどうか」**です。

A様の場合、その答えは明確でした。

60代独身にとって「持ち家」は投資ではなく「安心料」

「持ち家=資産(投資)」と考えると、高値掴みは失敗です。

しかし、60代独身の方にとっての持ち家は、投資ではありません。**「誰にも気兼ねなく、最期まで住み続けられる権利」という名の、高額な「安心料(消費)」**なのです。

なぜ、高齢者は「お金があっても」部屋を借りられないのか?

「家賃を払える預金通帳を見せれば、貸してくれるでしょう?」

A様も最初はそう思っていました。しかし、不動産仲介の現場では、もっとシビアな現実があります。大家さんが高齢者の入居を敬遠する理由は、主に3つです。

  1. 孤独死リスク(事故物件化の懸念)
    万が一、部屋で亡くなられた場合、特殊清掃やリフォームが必要になり、次の入居者も決まりにくくなります。資産防衛をしたい大家さんにとって、これは最大のリスクです。
  2. 連帯保証人の不在
    兄弟も高齢化し、頼れる保証人がいないケースが増えています。保証会社を使う手もありますが、年齢制限で断られることもあります。
  3. 認知症リスク
    「火の不始末」や「ゴミ出しトラブル」など、近隣とのトラブルを懸念されることもあります。

60代ならまだ借りられます。しかし、75歳、80歳になって「立ち退き」を迫られた時、次に住める場所がある保証はどこにもありません。

この「根無草の不安」を抱えたまま、残りの30年を過ごせますか? という話なのです。

「更新のたびにビクビクしなくていい」

「好きな家具を置いて、壁に画鋲を刺してもいい」

この精神的な自由は、シミュレーションの「数百万円の損得」には代えられない価値があります。

「死んでお金を残す必要はない」という最大の強み

ここが、お子様のいるご家庭と、おひとりさまの決定的な違いです。

A様には、資産を残すべき相続人がいません(あるいは、無理に残す必要がありません)。

もし賃貸を選んで、現金を抱えたまま亡くなれば、それは「使いきれなかった数字」として残るだけです。

それならば、生きているうちにその資産を**「毎日の安心(持ち家)」**に変換して使い切る方が、ご自身の人生の満足度は高まるはずです。

「資産を減らさないこと」が目的になっていませんか?

私たちの目的は、「資産を使って、今日を安心して生きること」のはずです。

出口戦略:最後は「家」を「施設費用」に変える

もちろん、ただ散財するわけではありません。

都心の立地の良いマンションを購入しておけば、それは「換金性の高い資産」になります。

75歳、80歳になり、もし自宅での生活が難しくなったら?

その時は、そのマンションを売却し、その資金で**「有料老人ホームの入居一時金」に充てればいいのです。

あるいは、自宅に住み続けながらお金を借りる「リバースモーゲージ」**を活用し、亡くなった後に売却して清算するという手もあります。

  • 元気なうち: 「所有する安心」を享受する。
  • 介護が必要になったら: 売却して「手厚い介護」に換える。

この「資産の組み換え」ができるのも、ある程度の資産を持つ60代ならではの特権です。

【重要】「負動産」にしないための3つの購入条件

ただし、何でも買えばいいわけではありません。

独身の方が「最期は換金して施設代にする」ことを前提にするなら、以下の条件は絶対に外さないでください。

  1. 「駅徒歩7分以内」の中古マンション

自分が住むだけでなく、「将来売れるか(貸せるか)」が命です。駅近物件は、資産価値が落ちにくい鉄板条件です。

  1. 広さは「50㎡前後(1LDK〜2LDK)」

ファミリー向けの70㎡以上は、独身には広すぎて掃除が大変ですし、管理費も高くなります。また、将来的に「単身者・DINKs」に需要があるサイズ感を選ぶのが賢い戦略です。

  1. 「新耐震基準」と「管理状態」

1981年6月以降の建築(新耐震)であることは必須。そして、掲示板やゴミ捨て場が綺麗か? 修繕積立金は溜まっているか? をチェックしてください。「管理を買う」つもりで選びましょう。

まとめ:損得を超えた「納得」の選択を

年末にご相談に見えたA様は、最終的に購入を決意され、「これで枕を高くして眠れます」と晴れやかな表情で帰られました。

  • これから資産形成をする40代: 「損得」をシビアに見るべきです。
  • 資産がある50代・60代: 「損得」よりも「納得(安心)」を優先していいステージです。

もし、あなたも「数字上は賃貸がいいけど、心は持ち家を求めている」と迷っているなら、一度ライフプラン表を作ってみませんか?

「買っても大丈夫」という裏付けさえあれば、その選択は「浪費」ではなく「人生を豊かにする投資」になります。

執筆者紹介

執筆者:塩川 卓司
(CFP® / 宅地建物取引士 / 証券外務員一種 / 相続アドバイザー)
独立系ファイナンシャルプランナー歴15年以上。相談実績500件以上。

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ファイナンシャルプランナー塩川

ファイナンシャルプランナー塩川

・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/

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