「年金は65歳からもらうべき?それとも繰り下げて増額したほうが得?」
老後資金の計画を立てるうえで、多くの人が直面する悩みです。公的年金は、受給開始年齢を65歳から最長75歳まで自由に選べ、繰り下げるほど年金額は増えます。しかし、長生きすれば有利でも、早く亡くなると総受給額で損になる可能性も。さらに健康状態や家計状況、退職金や資産運用とのバランスも重要です。
本記事では、繰り下げ受給の仕組み・メリット・デメリットを徹底解説し、あなたに合った受給タイミングの判断ポイントを紹介します。
目次
公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は、原則として65歳から受給を開始します。ただし、制度上は60歳から70歳まで、希望に応じて「繰り上げ受給」や「繰り下げ受給」を選択することができます。さらに、2022年4月の制度改正により、繰り下げ受給の上限年齢は75歳まで延長されました。
繰り上げ受給を選ぶと、60歳から受け取ることも可能ですが、その分年金額は最大30%程度減額され、一生涯その金額が続きます。一方、繰り下げ受給を選ぶと、1か月繰り下げるごとに0.7%、1年で8.4%、最大で84%増額される仕組みです。
「いつからもらうべきか」という判断は、年金制度の仕組みを正しく理解することから始まります。特に、平均寿命や老後の生活費、他の収入(企業年金・退職金・貯蓄など)を考慮し、自分に合った開始年齢を選ぶことが重要です。次章では、繰り下げ受給の仕組みや増額率の具体例を詳しく解説します。
繰り下げ受給とは、公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)の受給開始年齢を65歳より後に遅らせることで、年金額を増額する制度です。1か月繰り下げるごとに0.7%、1年で8.4%増え、最大で75歳まで繰り下げると、65歳開始に比べて年金額は 84%増額 されます。
例えば、65歳から受給する年金額が月12万円の人が75歳まで10年間繰り下げると、12万円 × 1.84(84%増)= 約22.8万円 に増えます。この増額分は一生涯続くため、長生きする人にとっては非常に有利になります。
また、繰り下げ期間中に死亡した場合でも、遺族年金には影響がないため、家族への保障が減ることはありません。ただし、繰り下げた分の年金はその間は受け取れないため、老後資金に余裕がない人には不利になる可能性があります。
次章では、繰り下げ受給のメリットを詳しく見ていきます。
繰り下げ受給の最大のメリットは、年金額が一生涯増額されることです。たとえば、65歳で月12万円の年金が75 歳からの受給にすると約22.8 万円に増え、長生きすればするほど総受給額で得をする可能性が高まります。年金は「終身で支給される安定収入」であり、老後の生活費を確実に支える柱となるため、年金額を増やせることは非常に大きな安心材料となります。
また、インフレ対策としての効果も注目されます。物価が上昇した際、年金額は物価スライドで一定程度調整されますが、元々の年金額が多いほど将来の受給額も高くなり、生活の安定性が増します。さらに、退職金や貯蓄など他の老後資金に余裕がある場合、繰り下げることで「老後後半の生活費を強化」できる戦略にもなります。
特に健康に自信があり、平均寿命以上の長寿が期待できる人にとっては、繰り下げ受給は老後資金の安定化に大きく寄与します。
繰り下げ受給には大きなメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。最大の注意点は、受給開始が遅れることで受け取り総額が減る可能性があることです。一般的に、70歳までの繰り下げで増えた年金額が65歳からの通常受給額の総額を上回る「損益分岐点」は、概ね80歳前後と言われます。80歳より前に亡くなった場合、結果的に損となる可能性があります。
また、繰り下げ期間中は一切年金が受け取れないため、生活資金を貯蓄や退職金だけで賄う必要があります。老後の早い段階で大きな出費(医療費・介護費など)が発生すると、資金繰りが厳しくなる恐れがあります。
さらに、健康状態や平均寿命は個人差が大きいため、「長生きできる自信がない」「家計に余裕がない」といった場合には、繰り下げはリスクとなり得ます。
次章では、65歳から受給した場合と70歳まで繰り下げた場合の具体的なシミュレーションを行い、どのようなケースで有利になるのかを見ていきます。
65歳から年金を受給する場合と、70歳まで繰り下げて受給する場合では、どちらが有利になるのでしょうか。例として、65歳受給時の年金額が月12万円の場合を考えます。70歳まで5年間繰り下げると、年金額は 42%増の月約17万円 にアップします。
総受給額で比較すると、65歳から受給した場合、70歳時点で 12万円 × 12か月 × 5年 = 720万円 をすでに受け取っています。一方、70歳からの受給はスタートが遅いため、累計で720万円を超えるには 約11年(81歳頃) の受給が必要です。つまり、81歳を超えて長生きすれば繰り下げの方が得になりますが、それ以前に亡くなると損になります。
また、独身か夫婦か、他の収入(企業年金や資産運用)があるかどうかでも損益分岐点は変わります。長寿リスクへの備えと生活資金の確保のバランスを考え、自分にとって最適なタイミングを見極めることが重要です。
繰り下げ受給を選ぶかどうかは、年金だけでなく「他の資産運用との組み合わせ」を考えることが重要です。たとえば、65歳から受給を開始せずに繰り下げる場合、その間の生活費を貯蓄や退職金で賄う必要がありますが、その資金を安全に運用しながら繰り下げる戦略も考えられます。
一方で、65歳から年金を受け取り、その年金を生活費に回しつつ、貯蓄や退職金を投資信託やiDeCo、NISAなどで運用することで、繰り下げによる増額以上のリターンを得られる場合もあります。特に市場環境が良い時期には、資産運用の成果が繰り下げ受給を上回る可能性があります。ただし、運用にはリスクも伴うため、「安全に確実な収入を得たい人」は繰り下げ受給が有効であり、「運用で増やせる自信がある人」には通常受給+運用戦略が向いています。
自分のリスク許容度とライフプランを考慮し、年金と資産運用を組み合わせた最適な老後戦略を立てることが鍵です。
「年金をいつからもらうべきか」は、人それぞれのライフプランや家計状況によって答えが異なります。まず重要なのは、健康状態と平均寿命です。
長生きの家系で健康に自信がある人は、繰り下げ受給により増額された年金を長く受け取れるため有利になりやすいでしょう。逆に、健康リスクが高い場合や早めに資金が必要な場合は、65歳から受給を開始したほうが安心です。
次に考えるべきは、老後資金の全体像です。退職金や預貯金、企業年金など他の収入源が十分にある場合は繰り下げを検討しやすいですが、生活資金がギリギリの場合は繰り下げ期間に資金不足を招く可能性があります。
さらに、夫婦の年金やライフプランも重要です。夫婦の一方が65歳から受給し、もう一方が繰り下げることで、家庭全体の収入バランスを最適化する方法もあります。
年金をいつからもらうべきかは、「繰り下げで増額した年金を長く受け取れるか」「資産や収入に余裕があるか」「健康状態に自信があるか」によって最適解が異なります。
繰り下げ受給は長寿リスクに強い一方で、早期に資金が必要な人や健康に不安がある人には向いていません。
ポイントは、年金だけでなく老後資金全体を俯瞰し、退職金や資産運用と組み合わせた「トータルプラン」で考えることです。
Q1. 繰り下げ受給を途中でやめて65歳に戻すことはできますか?
A. 受給開始を決定した後は原則変更できませんが、65歳以降の待機期間中に申請すれば、その時点で受給開始できます。
Q2. 夫婦で繰り下げをすると本当に有利ですか?
A. 夫婦の一方が繰り下げることで家庭全体の収入が安定するケースはありますが、家計状況や年金額のバランス次第です。
Q3. 繰り下げ受給と繰り上げ受給はどちらが得ですか?
A. 長生きするほど繰り下げが有利、平均寿命前に亡くなると繰り上げが有利になる可能性があります。損益分岐点は概ね80歳前後です。
Q4. 75歳まで繰り下げる人は実際に多いのでしょうか?
A. 実際には、5年繰り下げの70歳受給を選ぶ人が比較的多く、75歳繰り下げを選ぶ人はまだ少数派です。生活資金や健康面のハードルが影響しています。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格) ・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員 ・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定) ・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) ・宅地建物取引士 ・証券外務員1種
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