退職金を減らさない「出口戦略」|安全な運用と取り崩しの鉄則

目安時間 10分

定年を迎え、長年積み上げてきた「退職金」や老後資金をどのように管理し、使っていくか――。

これは「貯める」こと以上に難しい、人生最大の課題です。

「せっかくの退職金、減らすのが怖くて使えない」

「銀行に勧められるまま投資していいのか不安」

そんな悩みを抱えたまま、思考停止で定期預金に預けていませんか?

しかし、インフレが進む今、何もしないことは「資産を目減りさせるリスク」そのものです。

大切なのは、以下の3ステップで管理することです。

  1. ライフプランで必要額を見える化する
  2. 3つのバケツで守りながら運用する
  3. 正しいルールで取り崩す

この記事では、退職金を減らさず守るための「具体的な運用商品」から「出口戦略」まで、FPの視点で徹底解説します。

 

まずは「ライフプラン」で資産の寿命を知る

退職金が入った瞬間、気が大きくなって高額な商品を買ったり、逆に不安で過度な節約に走ったりしていませんか?

どちらも、**「将来の全体像(ライフプラン)」**が見えていないことが原因です。

運用商品を選ぶ前にやるべきこと

「何を買うか」の前に、以下の計算を済ませましょう。

  1. 入るお金: 公的年金、退職金、企業年金の総額
  2. 出るお金: 生活費、リフォーム、介護予備費、楽しみのための費用
  3. 不足額: 「95歳まで生きるとしたら、いくら足りないか?」

この「不足額」が見えて初めて、「リスクを取って運用すべき金額」と「絶対に守るべき金額」の境界線が決まります。

ここを飛ばしていきなり投資を始めると、必ず失敗します。

資産を守る基本:「3つのバケツ」で管理する

退職金運用で失敗しないコツは、資金を役割ごとに**「3つのバケツ」**に色分けすることです。

① 安全資産のバケツ(守る)

  • 役割: 「生活防衛資金」。病気や介護、急な出費への備え。
  • 目安: 生活費の 3〜5年分。
  • 解説: 現役時代(50代)は「1〜2年分」で十分でしたが、定年後は給与収入がなくなるため、暴落時に資産を売らなくて済むよう、現金のクッションを厚く(3〜5年分)確保するのが鉄則です。
  • ルール: ここは「絶対に減らさない(元本保証)」ことが最優先です。

② 安定資産のバケツ(繋ぐ)

  • 役割: **「インフレ負けしない」**程度に守りながら運用するお金。5〜10年後に使う予定の資金。
  • ルール: 大きなリターンは狙わず、年利1〜2%程度で価値を維持します。

③ 成長資産のバケツ(増やす)

  • 役割: 「資産寿命を延ばすエンジン」。10年以上使わない余裕資金。
  • ルール: 長期運用で世界経済の成長を取り込み、インフレに打ち勝ちます。

    【具体策】退職金は「何」で運用すべきか?

    では、それぞれのバケツには具体的にどんな商品を入れるべきでしょうか?

50代・60代におすすめの「守りの運用手段」を紹介します。

① 安全資産におすすめ

  • 定期預金: すぐに使える流動性が魅力。ただしインフレには弱い。
  • 個人向け国債(変動10年): 元本割れがなく、金利が上がれば利息も増えるため、インフレ対策としても優秀な「最強の安全資産」です。

② 安定資産におすすめ

  • バランス型投資信託: 株式だけでなく、債券やREIT(不動産)にも分散投資するファンド。値動きがマイルドで、退職金運用のコアになります。
  • 債券ファンド: 先進国債券など、株式と異なる値動きをする資産を持つことで、ポートフォリオ全体のリスクを下げます。

③ 成長資産におすすめ

  • 全世界株式(オール・カントリー): 世界中の企業に分散投資し、経済成長を取り込みます。
  • NISAの活用: 成長資産は利益が出やすいため、非課税になる新NISA口座(つみたて枠・成長枠)を優先的に使いましょう。

【注意】避けるべき商品

銀行窓口で勧められる「退職金専用定期(高金利)とセットの投資信託」や「仕組み債」「外貨建て保険」などは、手数料が高くリスクが複雑なため、慎重な判断が必要です。

資産寿命を延ばす「取り崩し」のテクニック

運用しながら、いざ使う時はどう引き出すか?

日本の実情に合わせた2つの方法を知っておきましょう。

定額取り崩し(毎月〇万円)

  • 方法: 「毎月10万円」など、決まった額を引き出す。
  • メリット: 家計管理がしやすい。年金の不足分を補うのに最適。
  • デメリット: 資産が減っている時も同じ額を引き出すため、暴落時は資産の減りが早くなる。

    定率取り崩し(残高の〇%)

  • 方法: 「資産残高の3%」など、割合で引き出す。
  • メリット: 資産が減った時は引き出し額も減るため、資産が枯渇しにくい(長持ちする)。
  • デメリット: 毎月の受取額が変動するため、生活費の計画が立てにくい。

【FPの推奨】

生活費の不足分(必須のお金)は**「定額」で、旅行や趣味(余裕資金)は「定率」**で取り崩す、「ハイブリッド型」がおすすめです。

実践編:どの資産から手を付けるべきか?(運用の順番)

いざお金が必要になった時、どのバケツから使うべきでしょうか?

正解は、「安全資産(現金)」から先に使うことです。

  • × 間違い: 「投資信託が増えているから、利益確定して使おう」
  • 〇 正解: 「まずは現預金を取り崩し、投資信託はギリギリまで運用を続ける」

理由:複利効果を最大化する

現金は置いておいても増えませんが、投資信託(成長バケツ)は寝かせている間も働いてくれます。

「働くお金」を最後まで残すことで、結果として資産全体の寿命が延びるのです。

「現金が減っていくのは怖い」と感じるかもしれませんが、**「その裏で運用資産が育っているから大丈夫」**と考えるのがコツです。

定年後の運用に関する「よくある質問」

最後に、退職金の運用や取り崩しについて、相談現場でよくいただく質問にお答えします。

 

Q1. 暴落が起きて資産が減った時も、取り崩しを続けていいですか?

 

A.いいえ、その時は「運用資産」からの取り崩しをストップしてください。

株価が暴落している時に投資信託を売却するのは、資産を安く買い叩くことになり、寿命を一気に縮めてしまいます。

こういう時こそ、**「① 安全資産のバケツ(現金)」**の出番です。相場が回復するまでの数年間は、手元の現預金を使って生活し、運用資産は触らずに回復を待ちましょう。

この「待てる体力」を作るために、生活費の3〜5年分を現金で持っておくのです。

 

Q2. 銀行の「退職金専用定期預金(金利数%!)」は利用すべきですか?

 

A.金利の数字だけで飛びつくのは危険です。条件をよく確認しましょう。

「年利3%」などと宣伝されていますが、適用されるのは「最初の3ヶ月だけ」というケースがほとんどです(実質利回りは0.数%程度)。

また、セットで「投資信託の購入」が条件になっている場合、その投資信託の手数料が高く、定期預金の利息以上にコストがかかることもあります。

「期間限定の金利」に惑わされず、トータルで資産を守れるかを判断してください。

 

Q3. 75歳や80歳になっても、運用は続けるべきですか?

 

A.認知機能の低下に備えて、徐々に「シンプル化」することをおすすめします。

人生100年時代、インフレに対抗するために90歳まで運用を続けること自体は有効です。

しかし、判断能力が低下してくると、複雑なポートフォリオ管理は難しくなります。

75歳を過ぎたら、値動きの激しい株式を減らし、管理の手間がいらない「個人向け国債」や「シンプルなバランスファンド」に集約していくなど、**「守りの度合い」**を高めていく出口戦略もセットで考えましょう。

 

まとめ:お金は「使う」ためにある

老後資金の管理で一番大切なのは、「死ぬ時に一番お金持ち」を目指さないことです。

お金は、あなたの人生を豊かにするための「道具」に過ぎません。

  1. ライフプランで全体像を把握し、
  2. 3つのバケツに商品を振り分け、
  3. 現金から先に使っていく。

このルールさえ守れば、過度な節約をせずとも、資産寿命は延ばせます。

安心して、豊かなセカンドライフを楽しんでください。

 

この記事を読んだあなたへ

「資産管理のルール」は分かったけれど、自分の場合はどう配分すればいい?
迷ったら、まずはこの「設計図」を手に入れてください。


▼ 50代・60代のための『資産管理ガイドブック』を
無料メール講座で受け取る >

 

執筆者紹介

執筆者:塩川 卓司 (CFP® / 宅地建物取引士 / 証券外務員一種 / 相続アドバイザー) 独立系ファイナンシャルプランナー歴17年。相談実績500件以上。
>> お急ぎで直接相談したい方はこちら(初回相談)

▼ 50代・60代のための無料ガイド ▼

お金・不動産・相続の不安を解消する
「3つの羅針盤」を無料メール講座で公開中

無料メール講座でガイドブックを受け取る >

コメントフォーム

名前 

 

メールアドレス 

 

URL (空白でもOKです)

 

コメント

CAPTCHA


 

トラックバックURL: 

ファイナンシャルプランナー塩川

ファイナンシャルプランナー塩川

・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/

★FP相談の魅力動画
FP相談ってどんな感じ?

「FPにお金の相談をしてみたいけれど、どんな話をするのかイメージが湧かない…」という方へ。

日本FP協会が、FP相談の様子を紹介する公式動画を公開しています。相談の流れや雰囲気を知りたい方は、ぜひご覧ください。

▶︎ FP相談の魅力(日本FP協会公式)

▶︎ 初回相談のご案内はこちら