「不動産所得が増えてきたけど、このまま個人で持ち続けて大丈夫?」――そんな不安を感じたことはありませんか。
賃貸不動産の法人化は、節税効果や相続対策、所得分散など、多くのメリットが期待できる手法です。特に、所得が年間1,000万円を超える規模になると法人化の恩恵は大きくなります。
しかし、法人化には設立費用や社会保険負担、運営コストなどのデメリットも存在します。
本記事では、法人化の判断基準、相続税対策に有効な仕組み、メリット・デメリット、運用形態までを専門家の視点で徹底解説。賃貸事業をより有利に進めるためのヒントをお届けします。
目次
賃貸不動産の法人化は、不動産所得が年間1,000万円を超えるあたりから検討する価値が高まるといわれています。これは、個人の所得税が累進課税制度を採用しており、所得が増えるほど税率が上がるためです。
個人の最高税率は45%にも達する一方、法人税は23.2%程度に抑えられるため、一定規模を超える収益を法人化することで税負担を軽減できる可能性があります。
また、法人化は相続税対策としても有効です。個人で保有する不動産を法人に移し、相続人が法人の株式を保有する形にすることで、相続時に分割しやすい資産構成へと変えることが可能です。さらに、役員報酬を通じて所得分散を行うことで、贈与税や相続税をかけずに資産を移転できるメリットもあります。加えて、法人化により経費計上の幅が広がる点も魅力です。個人事業では経費として認められにくい支出も、法人では事業経費として計上可能なケースが増えます。
このように、税負担の軽減や相続対策、資産の効率的な分散が見込めるため、一定の規模を超える賃貸事業者は法人化を検討する意義が大きいといえます。
推定相続人が出資して法人を設立し、その株式を相続人が保有します。これにより、賃貸事業で得られる資産は個人の不動産ではなく法人の株式となり、相続財産として分割しやすくなります。さらに、資本金を1,000万円以下に設定することで、法人設立後2年間は消費税が免除され、初期負担を抑えることが可能です。
賃貸物件の建物部分を個人から法人へ売却(譲渡)します。譲渡価格は帳簿上の未償却残高を基準とするため、譲渡益による課税を回避できます。法人に買い取り資金がない場合は、被相続人からの長期借入として処理することも可能です。
土地部分は売却せず個人所有のままとし、「土地の無償返還に関する届出」を行うことで借地権トラブルや権利金の授受を防ぎます。
この届出により貸宅地評価減(20%)や小規模宅地特例(200㎡まで50%評価減)などの相続税軽減措置が利用可能です。
こうした仕組みにより、法人化は相続資産の圧縮と分割の容易化に大きく寄与します。
法人化することで資産の形態が不動産から株式に変わり、相続時の分割が容易になります。株式は不動産のように物理的に分ける必要がないため、相続人同士のトラブル回避にもつながります。また、法人の役員に相続人を就任させ、役員報酬として収益を分配することで、贈与税や相続税をかけずに資産を分散できる点も魅力です。
税制面では、個人の所得税が累進課税で最大45%に達する一方、法人税は最高でも23.2%程度であり、年間の不動産所得が1,000万円を超えると法人化による節税効果が高くなります。
法人から役員給与を受け取ることで給与所得控除が適用され、課税所得を一層減らすことが可能です。
加えて、法人は経費計上の範囲が広く、生命保険料など個人では経費にならない支出も計上できる場合があります。
赤字の繰越控除期間は個人事業の3年に対して法人は最大10年まで可能で、将来の利益と相殺して税負担を軽減できます。
法人所有にすることで管理運営を継続可能。
これらの要素が、法人化の大きなメリットとなっています。
法人は赤字であっても最低7万円程度の均等割が課税されます。個人事業では赤字の場合に税負担が発生しないため、この違いは小規模経営者にとって負担となり得ます。
法人を設立すると社会保険への加入義務が発生します。厚生年金や健康保険料の半額は会社負担となり、労災保険は全額会社負担です。これにより、人件費や社会保険料の負担が増加する点は無視できません。
法人設立には初期コストとして株式会社で20〜30万円程度が必要となります。加えて、会計処理や税務申告は個人よりも複雑で、専門家である税理士への依頼が必要になることが多く、顧問料などのランニングコストが発生します。
このように、法人化は節税効果や相続対策のメリットが大きいものの、固定費や手間が増加するため、収益規模や将来計画を踏まえた慎重な判断が不可欠です。
法人が賃貸物件の建物を所有し、賃料収入を直接法人が得る方法です。収益が全額法人に入るため、個人の所得税負担を大幅に抑えられ、相続税評価額も低減しやすくなります。相続時には株式として分割できるため、資産分割も容易です。
不動産管理会社方式(管理料徴収方式)**があります。法人は物件の所有者ではなく、管理業務を代行し、その対価として管理料を得ます。管理料は賃料の5%程度が適正とされ、給与所得控除を活用して個人の不動産所得よりも税負担を軽減できます。設立のハードルが比較的低いのが特徴です。
法人がオーナーから物件を借り上げ、入居者に再貸付を行う方式で、個人には一定の賃料(満室想定賃料の80〜85%程度)を支払います。ただし、法人が空室リスクを負うため、安定した入居状況を維持する戦略が不可欠です。
これら3方式を比較し、収益規模やリスク許容度に応じた最適な形を選ぶことが重要です。
まず、建物の譲渡価格が固定資産税評価額や帳簿価格と大きく乖離してしまうと、譲渡益が発生し、逆に税負担が増える可能性があります。適正な評価額を算出するためには、税理士や不動産鑑定士と連携することが重要です。また、法人に対する貸付金(被相続人からの借入金)が相続時に残っていると、その貸付金自体が相続財産として課税対象になるため、想定していた節税効果が減少することがあります。この点は事前にシミュレーションを行い、計画的に返済や資金移動を進めることが必要です。
法人化後は会計・税務処理が複雑になり、適切な経営管理が求められます。特に相続を見据える場合は、相続人全員の意向を踏まえた長期的なプランニングが不可欠です。
将来の相続分割、納税資金、管理体制をトータルで設計し、専門家と協力しながら法人化を進めることが成功のカギとなります。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格) ・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員 ・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定) ・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) ・宅地建物取引士 ・証券外務員1種
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