相続の話題になると、必ず出てくるのが**「法定相続分」**です。民法が定める相続割合は「平等」を原則としています。
例えば、配偶者が2分の1、残りの2分の1を子どもが均等に分ける、というのが典型的なケースです。
一見するとシンプルで公平に見えますが、実際の相続現場では「平等に分けることが必ずしも公平ではない」状況が多くあります。
典型的な例が家業を営む家庭の相続です。
この場合、もし相続人3人が「法定相続分どおり均等に分ける」と主張すると、問題が発生します。
家業を続けるために必要な不動産や株式を長男が相続すると、その分の価値が大きくなり、兄弟に対して**代償金(代償分割)**を支払わなければならなくなります。
しかし、長男に十分な資産がなければ、代償金を工面するために不動産を売却せざるを得ず、結果として家業の継続が困難になるのです。
こうした事態を避けるために、法律上は遺言を活用できます。
経営者である父が遺言を残すことで、「家業を長男に承継させる」「その他の財産は他の子どもに分ける」といった分割方法を指定できるのです。
👉 詳しくは 「遺言の準備が必要なケース」について をご覧ください。
しかし、遺言には限界もあります。
それは遺留分制度の存在です。遺留分とは、相続人が最低限保証される取り分であり、法定相続分の2分の1です。
仮に遺言で「家業資産は全て長男に」としても、他の兄弟が遺留分を請求すれば、やはり長男は金銭を用意しなければなりません。
その結果、やはり家業の不動産や株式を売却せざるを得ない状況になることも考えられます。
では、遺言や遺留分だけでは不十分な場合、どうすれば良いのでしょうか。
重要なのは、生前からのコミュニケーションと理解形成です。
こうした取り組みがあれば、形式的な平等ではなく、実質的な公平な相続を実現できるのです。
かつて日本には家督相続という制度がありました(明治31年~昭和22年)。
家督相続とは、長男が家を継ぎ、財産も含めて一括承継する仕組みです。戦後の民法改正で廃止され、現在はすべての相続人が平等に相続する「平等相続」が原則となりました。
しかし、現代でも家業や代々受け継がれる不動産がある家庭では、「家督相続的な考え方」が部分的に必要になります。
法律上は平等相続であっても、実際には家業や財産を守りながら次世代に引き継ぐために、公平性を重視した相続設計が欠かせないのです。
👉 相続を広い視点で理解したい方は 相続対策の全体像|遺産分割・節税・不動産・事業承継を総合解説 も参考になります。
相続は単なる「財産の分け方」ではなく、家族の未来をどうつなぐかという大きなテーマです。
平等という表面的な数字合わせではなく、家族全体にとって「公平」な形を模索することが、円満相続と家業承継を実現するためのカギとなります。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/
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