60歳の定年を迎えると、多くの人が直面するのが「この先どう働くか」という選択です。企業に残って安定収入を得る継続雇用か、自分の裁量で働けるフリーランスか──それぞれにメリットとデメリットがあります。さらに、近年注目されているのが両者を組み合わせた「ハイブリッド型」の働き方です。
本記事では、継続雇用・フリーランス・ハイブリッド型の特徴や資金計画の立て方、社会保障や保険の見直しポイントまで徹底解説。人生100年時代を見据え、自分らしく充実したセカンドキャリアを築くための具体策をお伝えします。
目次
継続雇用とは、定年退職後も同じ企業に再雇用されて働き続ける制度です。高年齢者雇用安定法により、企業は希望する社員を65歳まで雇用する義務があり、多くの企業が嘱託や契約社員として再雇用制度を整えています。最大のメリットは、毎月の安定した給与収入と社会保障の継続です。雇用保険や健康保険、厚生年金の対象となり、退職後も現役時代に近い保障を維持できます。また、これまで築いた人間関係や職場環境、業務知識を活かせるため、新しい職場に慣れるストレスが少ない点も魅力です。
一方で、デメリットもあります。多くの場合、収入は現役時代の6〜7割に減少し、役職が外れることや業務内容の制限も珍しくありません。また、勤務日数や時間が短縮されることで、働き方の自由度は低下します。継続雇用は、安定収入を優先したい人や職場に愛着のある人に向いていますが、新たな挑戦や自由な時間を求める人には物足りなさを感じる可能性があります。
選択の際は、自身の価値観や将来設計に照らして判断することが重要です。
フリーランスとは、特定の企業に雇用されず、自ら契約を結び仕事を請け負う働き方です。近年は、定年後に自分の経験やスキルを活かしてフリーランスとして活動する人が増えています。最大の魅力は自由度の高さで、働く時間・場所・仕事内容を自分で選べます。長年のキャリアで培った専門知識を活かしたコンサルティングや講師業、文章執筆やデザイン、オンラインビジネスなど、多様な仕事に挑戦できる環境が整います。また、やりがいや達成感を感じやすく、「自分らしい働き方」を実現できるのも大きなメリットです。
一方で、フリーランスには収入の不安定さという大きな課題があります。案件の受注状況や景気の影響を受けやすく、月ごとの収入差も大きくなりがちです。さらに、社会保障面では国民年金や国民健康保険への切り替えが必要になり、会社員時代に受けられた傷病手当金や失業給付はなくなります。病気やケガによる収入減少リスクも考慮しなければなりません。
フリーランスで成功するには、退職前から顧客基盤や営業スキルを整え、生活防衛資金を確保することが欠かせません。自由な働き方を望む人ほど、事前の資金計画とリスク対策が将来の安心につながります。
継続雇用かフリーランスかで迷う場合に、有効な選択肢となるのが「ハイブリッド型」の働き方です。これは、週の一部を継続雇用で勤務し安定収入を確保しながら、残りの時間を副業やフリーランス活動に充てるスタイルです。たとえば、週3日は再雇用先で働き、週2日はオンライン講師やコンサルタント、クリエイティブ業務など、自分のスキルを活かした仕事を行うといった形です。
最大のメリットは、「収入の安定性」と「新しい挑戦」の両立が可能なことです。完全な独立前の試運転として活用すれば、フリーランスの顧客開拓や実績づくりを進めながら、生活資金の不安を軽減できます。また、複数の収入源を持つことで景気変動や仕事の減少によるリスクを分散できる点も魅力です。
ただし、ハイブリッド型には注意点もあります。時間管理や体力面の負担が増えるため、無理のないスケジュール設計が必要です。さらに、副業を制限する就業規則がある企業もあるため、事前に確認しておくことが欠かせません。自分のペースで徐々にシフトチェンジできるこの働き方は、「安定と自由のバランス」を求める人にとって現実的かつ柔軟な選択肢となります。
60歳以降の生活を安定させるためには、働き方の選択と同時に、長期的な資金計画を立てることが欠かせません。特に退職後は給与収入が減り、年金や貯蓄、投資収益が主な収入源となるため、計画なしでは資産の目減りが早まります。
ここでは、定年後の資金計画を進める5つのステップをご紹介します。
年金・退職金・貯蓄・投資収益などの収入と、生活費・医療費・住宅費・趣味や旅行の支出を洗い出し、現状の収支バランスを把握します。
年2%の物価上昇を見込むと、20年後の生活費は約1.5倍になります。将来の支出増加を織り込んだ試算が必要です。
継続雇用なら安定収入をベースに、フリーランスなら変動を前提に生活防衛資金を多めに確保します。
趣味や旅行、学び直しなど、自分らしい時間を楽しむための費用も計画に含めましょう。
iDeCoやNISA、小規模企業共済などの税制優遇制度を活用し、資産運用と節税を同時に行います。
この5ステップを踏むことで、「生活の安心」と「やりたいこと」を両立できる資金計画が完成します。
会社員からフリーランスへ移行すると、最も大きく変わるのが社会保障制度です。厚生年金から国民年金へ、健康保険から国民健康保険へ切り替わり、傷病手当金や失業給付といった保障は受けられなくなります。その結果、病気やケガによって働けなくなった際の収入減少リスクが高まり、老後の年金額にも影響が及びます。
このため、フリーランスとして働く際は、不足する保障を民間保険で補うことが重要です。具体的には、入院や手術に備える医療保険、働けなくなった場合の所得補償保険、家族がいる場合は必要に応じて生命保険も検討します。特に60歳以降は保険料が高くなり、健康状態によっては加入できないケースもあるため、退職前に見直しや新規加入を済ませておくことが得策です。
また、現在加入している保険を安易に解約しないこともポイントです。既契約の方が条件が良い場合や、健康状態の告知が不要な場合があるため、必ず比較・検討を行いましょう。さらに、国民年金に付加年金を上乗せする、国民健康保険の高額療養費制度を理解するなど、公的制度の活用も欠かせません。
フリーランスとして安定して働くためには、収入面の確保だけでなく「保障の土台づくり」が不可欠です。ライフプラン全体の中で保険と社会保障を位置づけ、万一のリスクに備えることが、安心して活動を続けるための第一歩となります。
定年後の生活を安定させるには、収入が減っても資産を長持ちさせる工夫が必要です。そのための基本は、**「収入を増やす」「支出を減らす」「資産を働かせる」**という3つの柱です。
継続雇用やフリーランス、副業など複数の収入源を持つことで、収入減のリスクを分散できます。特に自宅でできるオンライン業務や、資格・経験を活かしたコンサルティング、講師業は年齢を問わず取り組みやすい選択肢です。
固定費の見直しは効果が大きく、保険料・通信費・サブスクリプションなどを削減するだけで年間数十万円の節約につながります。生活費の節約は「我慢」ではなく、ムダの排除を意識することが継続の秘訣です。
預貯金だけではインフレに負ける可能性があります。iDeCoやNISAなどの制度を活用し、インフレ率+1〜2%を目指す運用で資産価値を維持・向上させることが重要です。運用比率は、リスク許容度や生活資金の余裕を踏まえて決定します。
この3つをバランス良く実行することで、収入減や支出増の不安を解消し、長期的に安定したキャッシュフローを実現できます。
フリーランスになると、会社員時代のように税金や資産形成を自動的に会社が管理してくれることはありません。その一方で、自ら手続きを行うことで節税と老後資金づくりを同時に進められる制度を活用できるという大きなメリットがあります。
正しい帳簿を作成し期限内に申告すれば、最大65万円の控除が受けられます。副業や小規模な活動でも対象になり、会計ソフトを使えば記帳作業も効率化できます。
個人事業主やフリーランスが加入できる“退職金制度”のような仕組みです。掛金は全額が所得控除となり、将来は一括や分割で受け取れます。長期積立に向いており、節税効果と老後資金準備を同時に実現できます。
掛金が全額所得控除となる年金制度で、老後まで非課税で運用できます。長期で安定的に積み立てたい人に向いています。
運用益や配当が非課税となり、途中引き出しも可能なため、流動性の高い資金運用に適しています。iDeCoと併用することで、老後資金の層を厚くできます。
これらの制度を組み合わせれば、税負担を軽減しながら効率的に資産形成が可能です。フリーランスとして長く安定して活動するための“お金の土台”として、早期からの活用が鍵となります。
60歳は「余生の入り口」ではなく、「第二の人生のスタート」です。退職後の20〜30年を充実させるためには、働き方やお金の確保だけでなく、心や暮らしの質を高める視点が欠かせません。ここでは、人生後半を豊かにするための4つの鍵を紹介します。
年金・退職金・運用益・副収入などを組み合わせ、将来の生活費を見通せるキャッシュフローを整えることで、お金の不安を軽減できます。
仕事や地域活動、趣味のサークルなど、人と関わる場を持ち続けることは孤立防止や心の健康に効果的です。
旅行、学び直し、新資格取得、起業、ボランティアなど、「今だからこそできること」に一歩踏み出すことで、自分らしい人生が広がります。
元気であってこそ、やりたいことを楽しめます。運動・食事・定期健診など、健康寿命を意識した習慣づくりが自由な生活を支えます。
この4つをバランスよく取り入れることで、経済面だけでなく精神的にも満たされた、充実したセカンドライフを送ることができます。
定年を迎えた60歳からの人生は、まだ20〜30年以上続く大切な時間です。その過ごし方は、「働き方」と「ライフプラン」の選び方によって大きく変わります。継続雇用は収入や社会保障の安定を重視する人に、フリーランスは自由や挑戦を求める人に向いています。そして、その中間として両者のメリットを兼ね備えたハイブリッド型は、安定と新しい挑戦を両立させたい人に最適です。
どの働き方を選ぶにせよ、資金計画・保険や社会保障の見直し・節税制度の活用は不可欠です。また、お金の面だけでなく、社会とのつながり、やりたいことへの挑戦、健康の維持といった「人生の質」を高める視点も欠かせません。
60歳からの時間は、あなた自身がデザインする自由なステージです。安定と自由のバランスを見極め、自分らしいセカンドキャリアを選び、人生後半を充実させる一歩を今日から踏み出しましょう。
ファイナンシャルプランナー塩川
・CFP(FP上級資格)・証券外務員1種・宅地建物取引士・NPO法人相続アドバイザー協議会 認定会員・不動産後見アドバイザー(全国住宅産業協会認定)・高齢者住まいアドバイザー(職業技能振興会認定) (独立系FP会社株式会社住まいと保険と資産管理 所属)」https://www.mylifenavi.net/
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